immature love | ナノ


▼ 九と三/四番線5

「じゃあね、ハリー、ロン」

「おいおい、俺たちは無視かよ?」

「このままリーのタランチュラを見に行こうぜ、すげーデカイらしいんだ」

「勘弁してよ。虫は魔法薬学だけで十分。ロンを誘ってあげたら?」

 ベーと舌を出したソフィアは、代わりに提案した。ロンがこの世で一番蜘蛛を恐れていることを知っていたので、フレッドの提案は渡りに船と言えた。

「トルネードーズが負けたこと言っただけで、大人げないよ!」

 ロンが悲鳴をあげる。

「ワザと煽ってたってわけ?」

 ロンの非難にソフィアが目を細めれば、ロンはやり返しとばかりにべーっと舌を出した。わざとかという質問について、答える気は無いらしいが、態度が如実に示している。間違いなくわざとだとソフィアは確信した。無邪気な発言と思いきや、さすが双子の弟だ。かわいいロニー坊やがどんどん双子みたいに憎たらしくなったらどうしよう、とソフィアは考えた。そのままコンパートメントを後にする前に、慌ててハリーに手を差し出す。

「ロンをよろしくね、ハリー」

「うん」

「なんだよソフィア!」

 ハリーと握手を交わしたとき、ただの親切な上級生に見えるように、余裕のあるゆるい笑みを心掛けた。態度とは正反対に、ソフィアは叫び出すことを抑えることに必死だった。

 ハリー・ポッターと握手している!

 よくないと分かってはいても、ソフィアはやはりハリー・ポッターのファンを辞めることは到底できないらしい。怒るロンと笑う双子を躱して、ソフィアはそそくさと前方の自分のコンパートメントへ戻った。弾む気持ちを抑えきれず、一人くすくす笑う。

 途中通りがかったコンパートメントのガラス窓に大きな毛むくじゃらの何かがはりついたので、悲鳴をあげて腰を抜かした。中からリーの笑い声が聞こえてきて、ハリーとの握手で弾んだ気持ちが、空気の抜けた風船のようにシュルシュルと縮んでしまう。ソフィアはむっとする気持ちを抑えて自分のコンパートメントへ急いだ。

「おかえりソフィア、遅かったわね」

「ハリーとロンに会ってたの」

「あのハリー・ポッターに会ったの?」

 レティは驚いたように目を丸めた。興味津々といった様子で問いかけた。

「ただの男の子だったわ、彼にとって悲しい出来事でチヤホヤするのもおかしいわよね」

 握手した時の興奮は都合よく忘れて、ソフィアは格好つけて言った。しかし、ロンと並んでいたハリーは、まったく普通の男の子のようにも見えたことは本当だった。

「あなた、熱烈なポッターファンだったくせによく言うわ」

 肩をすくめ大人な回答をしたソフィアにレティは目を丸くした。レティの言葉に若干目元を赤く染めながら、ソフィアは首を振った。

「今だって憧れとかヒーロー視してるところはあるわ。でも、それはいけないなって思ったの。彼自身を見ないと」

 ソフィアの言葉に、セドリックはにっこりと微笑んでその通りだねと笑った。セドリックにたしなめられず、ウィーズリーおばさんの言葉もなければ、ソフィアはきっと「あの有名なハリー・ポッター? 額の傷って本当にあるの?」とでも無神経な質問を投げかけていたに違いない。受け売りの言葉を自慢げに言う自分を恥ずかしく感じたソフィアだったが、その通りだと言うセドリックの言葉に少しだけ勇気付けられた。


prev / next

[ back to top ]



第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -