▼ 九と三/四番線4
ウィーズリー夫妻とジニーに再度手を振り、慌てて列車に向かって走る。もし荷物を持っていたらソフィアは出発に間に合わず、遅刻することになっていただろう。待っていてくれた双子に列車をよじ登るのを手伝ってもらいながら、ソフィアはなんとか発車する前の列車にギリギリで滑り込んだ。動き出した列車の窓から顔を出せば、ジニーは泣きながら汽車を追いかけて走っている。ジニーが転ばないか心配しながら、もう一度大きく手を振った。
「今生の別れでもしてたのか?」
ソフィアがおばさん達と長く話していたのが気になったのか、フレッドが首を傾げて聞いた。からかうことを忘れないフレッドに、ソフィアは肩をすくめた。
「あなたたちのお別れが薄情なだけよ」
「薄情だなんてとんでもない!」フレッドは非難がましく言った。
「我々は別れを説教で彩らないよう、最善を尽くしたまでさ」ジョージが重々しく言った。
「俺らって信じられないくらい親孝行だな」
フレッドが両手を口に当てて、感動したように言った。ジョージも深く頷いている。二人の反応に、ソフィアは笑った。
「ロンのところに少し顔を出そうと思ってるんだ。一緒に行こうぜ」
ジョージの言葉に、コンパートメントへ戻ろうと思っていたソフィアは一瞬迷ったのち頷いた。
「ソフィア、聞いて驚くなよ。我らがロニー坊やはハリーとコンパートメントが一緒なんだ」
ロンのコンパートメントがあるという後方の車両に向かっている途中、フレッドがソフィアの耳に顔を寄せて内緒話するように囁いた。ハリーという名前を聞いた瞬間、ソフィアは悲鳴をあげた。
「嘘でしょう! 本当に? 私が行くの断ってたらどうするつもりよ!」
「その反応、さっき欲しかったけどね」
ジョージが小声で口を挟んだ。ホームでソフィアの反応が薄かったことを根に持っているようだった。
「どうせ来ると思ってたさ。万が一来ないって言ったときは、ハリーで釣るつもりだったけど」
フレッドは肩をすくめて話を続けた。ロンは空いているコンパートメントを見つけられず、ハリー・ポッターに相席をお願いしたらしい。「もしかしてハリーファンの私と引き合わせるために?」とソフィアが夢見心地に呟けば「トロール並みの脳みそだな」とジョージがすかさず言った。フレッドは何も言わなかったが、頭に当てた指をグルグル回してから、ジョージに向かってアイツはだめだとでも言いたげに首を振った。
「おい、ロン。俺たち、真ん中の車両あたりまで行くぜ……リー・ジョーダンがでっかいタランチュラを持ってるんだ」
コンパートメントに着き、ジョージのさりげなさを装った声掛けにロンはもごもごと答えた。友達の前で兄弟に心配されてる末っ子のように思われるのが嫌なのかもしれない。
「ハリー、自己紹介したっけ? 僕たち、フレッドとジョージ・ウィーズリーだ。こいつは弟のロン、それとこっちがソフィア・アスターだよ」
「ソフィアは家族じゃなかったんだね」
「ソフィア、僕ら三つ子に見えるらしいぜ! ”そっくり”だもんな、仕方ない」
フレッドの紹介にハリーは目を丸くして驚いた。そんな反応に双子はこぞって吹き出す。げらげらと笑う双子にハリーは少し居心地が悪そうだ。
赤毛の中で一人だけブロンドの自分もウィーズリー一家の一員に思われたらしいことは面白かったし、嬉しい気持ちにもなった。ソフィアも同じように笑わずにはいられない。
「私はソフィア・アスターよ、今日は私のお母さんとお父さんは仕事でいなかったの」
「よろしく、ソフィア」
「あれ、ソフィア。それトルネードーズのバッジ?」
握手する二人をよそに、ロンに指差されたのはソフィアの左胸に輝く金色のTの頭文字が二つ並んだ空色のバッジだ。今年両親に買ってもらったものだった。箒に乗れずともクィディッチが好きなソフィアはトルネードーズのファンだ。キャプテンが替わったせいかシーズン中試合成績は奮わなかった(ソフィアは自分が箒にまともなことは乗れないことを棚に上げ、クィディッチについてあれこれ言うのが得意だ。)が、それでも魅力ある選手が多いチームだ。
「この前、チャドリー・キャノンズが勝ったよね!」
ロンは年下だとわかっている。大人な対応をしなくてはいけないと分かっていながらも、ロンが贔屓しているチャドリー・キャノンズに一七〇対一六〇という僅差で負けたのはまだ消化しきれていない苦い思い出だ。少しばかりの仕返しにソフィアはローブのポケットからハンカチを取り出し、ロンの鼻に当てようとした。
「ロニー坊や、お鼻がよごれてまちゅよ。とってあげまちゅからね」
「やめろよ!」
ハリーの手前もあって嫌がるロンに、大人気なくケタケタと笑ったソフィアは、ハンカチを丁寧にたたむとポケットにしまいなおした。
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