immature love | ナノ


▼ ダイアゴン横丁6

「去年、インクの色が変わる羽ペンを買ったの。それでレポートを書いたらマクゴナガル先生に呼び出されちゃったわ」

 ソフィアは当時を思い出し、げんなりとした声で言った。

「だから先生はレポートの書き方なんて授業で説明したんだね。一年生じゃないのに、なんで今更って思ってたんだよ」

 店頭に綺麗に並べられた羽ペンを見ながらセドリックは笑った。あの時のマクゴナガルの怒る姿といったら! スネイプが微笑んだ時と同じくらい生徒たちは怯えた。(当然、ハッフルパフ生の誰もがスネイプがほほ笑んでいる姿なんて見たことがないが、恐ろしい体験をした時の比喩として一時期流行っていた。)それくらい恐ろしかったのだ。

「あ! ハグリッドだ」

 セドリックの視線の先を追ったソフィアは、ハグリッドの横にいる人物を見て瞳を輝かせた。さきほどハグリッドがハリーの話をしていたばかりだ。横にいるダボダボの服を着た小柄な少年が、あのハリー・ポッターなのだろう!

 ソフィアは小さい頃からハリーの大ファンだった。彼女にとって彼は世界を救ったヒーローのような存在だ。ソフィアの世代は例のあの人が生きていた時まだ小さかったのもあり、ソフィアほどのハリーの大ファンは余りいない。セドリックもハリーを間近にして有名人に対する興味は僅かにあるようだが、ソフィアほど興奮した様子ではなかった。

「握手、お願いしちゃだめかしら……」

 ハグリッドたちから見えない棚の陰にセドリックを引っ張り込みながら、ソフィアは小さな声で囁いた。セドリックはソフィアの行動にされるがままで笑っていたが、ソフィアの言葉を聞いて片眉を上げた。

「ソフィア、ダメだよ。いきなり彼の両親を失った事件のことで握手して欲しいだなて」

 セドリックはソフィアに言い聞かせるようにゆっくりと喋った。ソフィアは興奮を抑えきれない様子から見る見るうちに落ち込んで、頭を振って項垂れた。

「そうよね。うん、やめとくわ。私ってば本当に人の気持ちを考えてないわね」

「君がハリー・ポッターの大ファンなのは知ってるから、その気持ちも分かるよ。自分を責める必要なんて全くないさ」

 にっこりと笑ったセドリックに慰められ、少しだけ落ち込んだままソフィアは店を出た。買ったインクは軽いのに、今は少しだけ重く感じられる。そんな気持ちを察してか、セドリックはポケットから何かを取り出した。何か不思議に思ったソフィアが見れば、見慣れない黒い入れものに「Mars」と赤い文字でプリントされている。

「なにこれ?」

「マーズ・バー・チョコレートっていうマグルのお菓子だよ、父さんとこの服を買いにマグルの街へ行った時に買ったんだ。ソフィアにもあげるよ」

 実は僕一人で全部食べようと思ってたんだと恥ずかしそうに笑ったセドリックは、袋を破ると中から出てきたチョコレートバーを半分に折った。半分差し出されたチョコレートバーを一口食べたソフィアは、落ち込んだ様子が嘘のように瞳を輝かせた。こんなに美味しいお菓子は食べたことがない! 蛙チョコレート以上だ!

「良かった、元気でたね」

 そんなソフィアの様子を見て安心したように笑ったセドリックは、漏れ鍋に戻ろうと言ってチョコレートバーを持たない方の手を差し出した。ソフィアは勢い良く手を取る。

「あなたって最高の親友だわ」

「はは、レティとマルタに張り合えるかな?」

 お互いの顔を見て笑い合いながら、二人は夕日で染まるダイアゴン横丁を歩いた。待ちきれないとレティが怒っているかもしれない、トムは料理を作りすぎているかもしれない、マルタとギリアンはもう食べ始めてるかもしれない……そんなくだらない話をしながら二人は笑って石畳の道を急いだ。


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