▼ ダイアゴン横丁4
二人に別れを告げたソフィアがぶらぶらと何をするわけでもなく歩いていると、高級箒専門店が目に入った。箒のショーウィンドウには年下の男の子たちがへばりついている。
「あら? ソフィアじゃない?」
今年は何が発売されたのか見てみようとソフィアが足を止めたら、自分の名前を呼ぶ声がした。
振り返った先に、レティ・シャフィクがいる。肩にかかるくらいの金髪がふわふわと風に吹かれて揺れた。シャフィク家は聖二八族の由緒正しい純血の一族だ。彼女は純血主義を嫌っており、スリザリンの知り合いと顔を合わせる度に喧嘩に発展する気性の荒さだった。
「Hola!」
マルタ・ガルデアーノがレティの後ろからひょこりと顔を出した。ぶんぶんとソフィアに両手を振っている。マルタはスペイン出身で、時々こうしてスペイン語を交えてくるものだから、ソフィアとレティは何を言ってるのか分からなくなる時があった。小麦色にこんがり焼けた肌や深い彫りの顔立ちがエキゾチックな雰囲気で、ダイアゴン横丁では少しだけ視線を集めていた。
「久しぶりね! 買い物の途中? さっき二人を見かけたってセドが言ってたから探したのよ」
二人の友人の姿に、ソフィアは笑みをこぼした。マルタは両手に持っていた重そうな荷物を放り出して、ソフィアをハグして両ほほに軽いキスをした。後ろでレティがマルタの荷物を拾い、重たそうにしながら文句を言っている。
「買い物は終わったよ。今からアイスクリームを食べに行こうと思ってたとこだけど、どーお?」
スペイン人の英語はどこか舌ったらずだ。お転婆で落ち着きがないマルタの性格もあって、ソフィアは低学年の子を相手にするように頭を撫でてやりながら、食べに行こうと頷いた。レティは憤然と歩いてくると、マルタを引っぺがし、彼女に荷物をドンと押し付けた。
「昨日は雨だったのよ! 湿った地面に買ったばかりの教科書を置くなんてどうかしてるわ!」
プンプンと湯気が立ちそうなほど怒るレティを見てソフィアとマルタは顔を見合わせ、笑い合った。レティは怒りっぽいが、なんだかんだ優しい。なにせハッフルパフなんだから!
ソフィアの提案で、二人は一旦ソフィアの漏れ鍋にある部屋へ行き、たくさんの荷物を置くことにした。
「私も今度は部屋を取ろうかしら、荷物が多くて嫌になっちゃうわ」
「三人でお泊まり会も楽しそお! そのまま新学期の日に、一緒に学校へ行くの!」
お泊まり会するなら可愛いパジャマで沢山お菓子を食べながら夜更かししよう、夜更かししたら新学期に寝坊しちゃう……そんな話をしながら階段を降り、再びダイアゴン横丁へ戻る。カラフルなパラソルが並ぶテラスには既に先客がいた。セドリックとギリアンだ。
「やあ。レティとマルタに会えたんだね」
一足お先に買っちゃったと悪戯げに微笑むセドリックはストロベリーサンデーを食べていた。隣にはチョコレートサンデーのソースで口の周りをべとべとにしたギリアンがいる。二人とも顔は整っているが、やはり女子人気の差がこういう時に出るなとソフィアはしみじみと感じた。ギリアンは「なんだよ」とじろりとソフィアを睨んで、顔周りを紙ナプキンでごしごしと拭いた。ソフィアの視線から失礼な考えを感じ取ったらしい。
「注文してくるわ」レティはソフィアを見て付け足した「ソフィアは何が良い?」
「私、マンゴーで!」マルタが手を挙げた。
「マルタ、あなたには聞いてないでしょ!」レティが言った。まだ荷物を地面に放り出したことを怒っているようだ。
「私も一緒に行くわ、メニューを見て決めたいし」ソフィアは首を振って立ち上がった。
今にも血圧が高くなりすぎて死にそうなレティに苦笑したソフィアは、セドリックに席を取っておくよう頼むと二人に連れられ店の中へ入った。中には人好きの笑みを浮かべたおじさんがいる。常連客のソフィアに対して、親しげに手を振った。
店主のフローリアン・フォーテスキュー氏は中世の魔女火あぶりになぜかすごい詳しいので、夏休みに出た魔法史の宿題「十四世紀における魔女の火あぶりの刑は無意味だった――意見を述べよ」という宿題に大助かりだった。詳しい理由を尋ねても、フォーテスキュー氏は茶目っ気たっぷりにウィンクするだけだった。
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