immature love | ナノ


▼ ダイアゴン横丁3

 合流する場所はフローリアン・フォーテスキュー・アイスクリーム・パーラーにしようと話しながら三人は裏庭へ出た。寂れた場所で、レンガの壁以外に何もない。代表してセドリックが杖を取り出すと、ゴミ箱の上の左から三番目のレンガを軽く叩いた。少し後ろで待っていた二人の方までセドリックが戻ったタイミングで、レンガの壁はみるみるアーチ型に広がりダイアゴン横丁への入り口となる。

 ダイアゴン横丁は新学期の前ということもあり生徒やその親たちでいつも以上に賑わっていた。新入生だろうか。はしゃいだ男の子が一人走って横を通り過ぎていく。カーリーヘアで、マグルのような服を着ている。片手には杖を持っていた。見ているだけでも危なっかしいはしゃぎぶりだ。オリバンダーの杖の店で買い物をしたばかりなのかもしれない。

 男の子は足がもつれ、頭から地面に倒れた。拍子に杖が手元から離れて火花を放ち、杖自身で飛び跳ね離れたところに落ちる。男の子は上半身を起こしたが、杖がないことに気がつくと青ざめた。えぐえぐと引きつったような声を漏らし、泣き始めてしまった。ソフィアは慌てて男の子を助け起こしに向かった。

「大丈夫?」

 声をかけてなんとか男の子を立たせていると、セドリックが落ちた杖を自分のハンカチが汚れるのも構わずに丁寧に拭いていた。

「ほら、杖だよ。君はホグワーツ生?」

「ありがとう。うん、今年入学するんだ」

 セドリックが差し出した杖を受け取り、男の子はおずおずと頷いた。

「それはいいね! 僕もホグワーツの生徒なんだ。セドリック・ディゴリー。こっちはソフィア・アスター。九月からよろしくね」

「俺の紹介もしてくれよ。俺はギリアン・サマーズ」遅れてやってきたギリアンが口を挟んだ。

「あなたは、ぼーっとしてただけでしょう」ソフィアがギリアンをぎろりと睨んだが、ギリアンは肩をすくめるだけだった。

「僕は、ジャスティン・フィンチ-フレッチリー。さっきはありがとう。ホグワーツってさ……」

 ジャスティンがにっこりと笑顔を浮かべる。何か話そうとした時に、遠くから「ジャスティンどこなの」と高い声が響いた。ジャスティンは明から様に「しまった」と言いたげな表情をした。

「ママを置いてきちゃったんだ! もしホグワーツで会ったらよろしくね。さっきは本当にありがとう」

 ジャスティンは慌ただしくセドリック、ソフィア、ギリアンと握手をすると、手を振って声がした方に走って行った。今度は杖をジーンズのポケットに捻じ込んでいたので、どこかに失くす心配もなさそうだ。

「なんだか、初めてセドリックと出会った時を思い出しちゃったわ」

 ソフィアがジャスティンの後ろ姿を見送りながら言う。転んで泣いたところも、助けてもらったところも、状況はとても似ている。

「確かに僕らが知り合ったのもダイアゴン横丁だったね」

 セドリックも覚えているらしい。ソフィアが転んだことには触れずに頷いた。

「泣かないでってハンカチを差し出してくれたんだもの! 王子様かと思って固まっちゃったのを覚えてるわ」

 ソフィアがにやにやしながら言った。本当にかっこいいんだからと揶揄っても、セドリックは困ったように頭を掻くだけだ。

「昔から王子様ぶりを地でやってるのな。ほら、さっさと買い揃えに行こうぜ」

 ギリアンが、教科書リストを覗き込みながら興味なさそうに話を切り上げた。


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