immature love | ナノ


▼ ダイアゴン横丁1

 ダイアゴン横丁とロンドンのイースト・エンドを繋ぐ漏れ鍋。朝から広いダイニングルームには、分厚いウールのバラクラバずきんを被った鬼婆や小鬼や吸血鬼、ケバケバしい紫のローブを着た小太りな魔女、マグルには見慣れない客達で混み合っている。ソフィアが着ているロンドンの街中にも出て行けそうなワンピースは、かえって漏れ鍋では浮いていた。

 ソフィア・アスターはきわめて普通の女の子だった。とはいっても、魔法界の中ではの話である。ソフィアは、魔女だった。ホグワーツ魔法魔術学校に通う生徒で、今年三年生になる。ソフィアの周りの目立つ生徒たちと比べれば、とても平凡な女子生徒だ。

 ソフィアの前に置かれた清潔な白のワンプレートには、目玉焼き、ジャガイモのマッシュ、ベーコン、焼きトマトが丁寧に盛り付けられている。目玉焼きをフォークでつつくと、とろりと光沢を放つ黄身が零れ出た。黄身を絡めたベーコンを口に入れ、ソフィアはため息をついた。もちろん美味しいが、贅沢なことに、漏れ鍋の食事に感動しなくなってしまった。(ソフィアは自分がスープを温め直すことさえ出来ないのに、自分を棚に上げて考えることが得意だった。)

 友人は漏れ鍋の滞在を羨ましがるが、ソフィアは家で家族と一緒にとる食事の方が断然いいと思っている。ソフィアの母親が作る目玉焼きは、黄身も固くボロボロと崩れるし、白身のまわりが焦げている。漏れ鍋と比べれば当然劣っている筈なのに、不思議なことにとても美味しく感じる。残念ながら、焼きすぎた目玉焼きは暫く食べられていない。

「手紙が届いていましたよ」

 亭主のトムに背後から声をかけられ、ソフィアは驚きで背筋を伸ばした。

「ありがとう、トム」

 トムが笑顔を浮かべると、いくつか抜けてまばらになった歯並びがあらわになる。トムが杖を振り、コップにオレンジジュースを注ぎ足した。もしソフィアが漏れ鍋の料理より母親の料理を恋しがってると知れば、機嫌を損ねて顔を梅干しのように皺くちゃにしかめるか、親と過ごせない子供が気の毒だと同情して猫背をさらに丸めてしまうだろう。

 ソフィアは手紙を受け取った。手紙の送り主は、ニンファドーラ・トンクスだった。(彼女はニンファドーラと呼ばれる度に、自分の名前なのに、唾を吐きつけられたような顔をする。)トンクスからの手紙は短かい。単語はまっすぐ並ばずに、ぐねぐねと泳いで波を作っている。まるで楽譜のようだった。
 
 
 ソフィアへ

 元気? 私はもうボロボロ!
 マッド=アイの訓練って、訓練っていうより虐めって感じ。
 彼って頭おかしいよ。すぐにこう言うの、油断大敵!

 今回、私が大急ぎで手紙を送ったのは、可愛い後輩を助けるためなんだ。
 アスターさんから占い学をソフィアが取ることにしたなんて聞いたもんだから!
 まともな授業を受けたいなら、占い学なんて今すぐやめること。
 絶対後悔するからさ。

 トンクス
 

 マッド=アイには、小さい頃に数回ソフィアの両親が家に呼んだことがあった。手紙に書かれている「油断大敵!」というフレーズはソフィアも聞き覚えがある。ソフィアは少し笑ったのち、手紙を丁寧に四隅を合わせて折りたたんだ。元々が適当に折られていたので、折り目が一つ増えてしまった。オレンジジュースを一口飲む。選択授業について大急ぎで手紙を送って忠告してくれたのはありがたいが、選択科目は二年生のイースター休暇で決める。つまり、大急ぎだったとしても、トンクスが筆をとった時点ですでに手遅れだった。


prev / next

[ back to top ]



「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -