immature love | ナノ


▼ 闇の印2

  ソフィアを半ば無理やり引っ張るように、シリウスは森の中を急いだ。この暗闇で、それも群衆の中で人探しは難しい。 ソフィアは早く帰ろうと言い出したい気持ちを必死で耐えた。

 シリウスが探しているのが、ハリーだからだ。ハリーは ソフィア にとっても大切な友人だったし、シリウスにとってかけがえのない親友が残した存在だと知っている。

 それに、一番重要なのは、ハリーが生き残った男の子であるということだ。もし本当に死喰い人がいるなら、彼の命が狙われかねない。いてもたってもいられないシリウスの気持ちは、痛いほど理解できた。

 恐怖から、涙がとめどなく溢れて前はろくに見えない状態だったが、シリウスが手を引っ張ってくれるおかげでなんとかついていけた。

「やめろ! やめてくれ! 私の息子だ!」

 聞き覚えのある、ウィーズリーおじさんの叫び声がした。シリウスとそちらに急げば、ハリー、ロン、ハーマイオニーが魔法省の魔法使いに取り囲まれている。

 ハリーの無事な姿に、 ソフィアを掴んでいたシリウスの力が緩んで離れる。安堵したのだろう。 ソフィアも、仲の良い友人の無事に、胸をなでおろした。

 シリウスがハリーの方へと駆けてゆく。 ソフィアは安堵からか、今度こそ膝から力が抜けてその場に尻餅をついた。 涙を抑えることができず、膝に顔を埋めたソフィアの肩を誰かが触った。

「 ソフィア? 大丈夫か?」

 茶色いゴワゴワ髭の魔法使い、エイモス・ディゴリーだ。ディゴリーおじさんに返事をしなくてはとわかっているのに、嗚咽が邪魔をして返事をできない。

「ああ、可哀想に……セド! セドや! こっちへ来てくれ!」

「…… ソフィア? 父さん、 ソフィアがなんで――」

「とにかく、様子を見てあげてくれ。私はあちらに行かねば……」

「わかったよ」

 ディゴリーおじさんが呼んだのは、彼の息子セドリック・ディゴリーだった。頭上で繰り広げられる会話に驚くのも束の間、ディゴリーおじさんにセドリックと一緒にいるようにと言われなんとか頷いた。

 セドリックが、落ち着かせるように ソフィアの背中を撫でさすった。涙を拭こうと顔をこする手を掴んで止められる。腫れた目でセドリックを見上げれば、「これ使って」と言って綺麗なC.Dと刺繍がされたハンカチを渡した。

「ありがとう」

 暫くして落ち着いた時に、ディゴリーおじさんとシリウスが戻って来た。ディゴリーおじさんは、シリウスに若干おどおどしていた。元凶悪犯罪者で、今は魔法省の最大の被害者であるから、どんな顔をすれば良いのか困っているのかもしれない。

「シリウス、なぜ ソフィアがここにいるんだ」

 ウィーズリーおじさんが固い声で聞いた。ウィーズリーおじさんがハリーたちを連れてこちらへ来るものだから、泣いていたことが ソフィアは恥ずかしくなって俯いた。だって、年下のハリーたちは誰一人として泣いていない。セドリックが、心中を察してくれたのか、元気づけるように背中をポンポンと叩く。

「彼女は私と共に行動していたんだ。ハリーを見つけたら、3人で姿くらましをするつもりだった」

「なんだって?」

 シリウスの回答に、ウィーズリーおじさんが声を出す隙も与えず、ディゴリーおじさんが大声をあげた。気まずさをかなぐり捨てたようだ。 ソフィアは驚きで目を丸め、ディゴリーおじさんを見つめた。

「あなたは! こんな状態の ソフィアを連れ回して! 挙句、一人ここに放置したっていうのか!」

「一人で放置なんてしていない。私はすぐにハリーを連れてソフィアのところへ戻る予定だったし、ここなら目が届くし安全と判断したからだ! それにソフィアはもう時期成人する魔女だろう」

「そうよ、ディゴリーおじさん。私は平気だし、この場所からシリウスが行った場所は数メートルも離れてないわ」

 シリウスを擁護するように、遠慮がちにソフィアは言った。シリウスが?きめ細やかな?面倒を見なかったからと言って責める事ではないと思ったし、なにより、この場で同級生や後輩が見守る中でこのテーマでの論議はもうやめて欲しかった。

「この森で、一人でいて安全な場所が今どこにあるって言うんだ。数メートルの距離が命取りになることはブラック殿はよぉくご存知だろう! それに今は未成年で、卒業も数年先に控えている学生だ!」

 ディゴリーおじさんは、シリウスの弁明や ソフィアの訂正にも耳を貸す気配はない。遂に、シリウスには任せられないからソフィア は自分が連れて帰ると言い出した。ウィーズリーおじさんが困ったように割って入る。

「エイモス、私が ソフィアを連れて帰るよ。子供たちをこれから家に帰すところだ。 ソフィアの両親もこの事件に駆り出されるだろうし、モリーがいる我が家でそのまま預かった方がいいだろう。いいかい、ソフィア?」

 ソフィアは思わずコクコクと首を振って頷いた。こんなに迷惑をかけた後にシリウスと二人きりは気まずかったし、家に誰もいなくなることはウィーズリーおじさんの言う通りだった。ソフィアの様子に、ディゴリーおじさんはしぶしぶ引き下がる。

 ディゴリーおじさんは、シリウスにとってのハリーが、おじさんにとってのセドリックのような存在だと知らないからここまで怒っているのだろう。それでも、こうやって ソフィアを想って激怒してくれている。シリウスに申し訳ないと思いつつ、 ソフィア を気遣ってくれた事実が嬉しかった。

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