immature love | ナノ


▼ 闇の印1

 夢見るような気持ちで、ソフィアはスキップしながら紫の絨毯が敷かれた階段を軽やかに下りた。階段を上った時とは逆に、下りるにつれて人が増えていく。まもなく、スタジアムからキャンプ場に向かう群衆に巻き込まれた。

 ランタンに照らされた道は来た時と変わらないが、騒々しさは2倍、いやそれ以上だ。歌声が響き、笑い声がそこら中に広がる。レプコーンはケタケタと笑いながら頭上を忙しなく飛び交った。

「最高だ! 最高の試合だった!」

 シリウスは語彙力を無くしたように、楽しそうに群衆に負けずとも劣らない大声で笑い声をあげた。シリウスは「ウロンスキー・フェイント」について語りたくて仕方ないようで、あの時のクラムが――と永遠としゃべっている。

 テントに帰ったが、そのまま眠る気にはとてもなれず、 ソフィアとシリウスは国歌を歌いながら、(シリウスがいつの間にか用意していた)バタービールで乾杯した。うかれ具合は、年齢差が感じられないほどいい勝負だ。

 騒ぎ疲れ、徐々に眠気に視界が狭まって来た頃。キャンプ場の騒音が様変わりし、 ソフィアの頭が何か変だと警鐘を鳴らした。歌声の代わりに、人々の叫び声や走る音が聞こえてくる。寝ぼけているのだろうか。

「 ソフィア、起きるんだ!」

 シリウスはいつの間にかテントの外に出ていたらしい。中に飛び込んで来て、 ソフィアをソファから引っ張り起こした。 ソフィアが玄関に捨て置いた上着を押し付けるように渡した。

「外に出よう。いいかい、絶対私から離れないように」

 シリウスの深刻な様子に、 ソフィアは緊張と恐怖を押さえ込んで頷いた。外に出ると、みんなが森へと駆け込んで行くのが見えた。悲鳴や野次、嗤い声、それに沢山何かが破壊されるような音。

 突然、強烈な緑の光が炸裂し、あたり一面を強く照らした。明るくなった視界で、魔法使いがひとかたまりになって、杖を一斉に真上に向け、キャンプ場を横切り、ゆっくりと行進しているのが見えた。

 黒いローブで、フードをかぶって骨のような仮面をつけている。彼らの頭上で、大きな人形が浮かんでいる。いや、あれは人だ。浮かべられ、人形劇のように操られて苦痛の表情を浮かべている。

 多くの魔法使いが、その光景を見て笑って行進に加わっていく。集団に、テントは次々と吹き飛ばされ、悲鳴もひときわ大きくなった。

「来なさい、こっちだ」

 おぞましい光景に足がその場に縫い付けられたように立ち尽くしていた ソフィア の腕を、シリウスは引っ張って、他の群衆と一緒に森へと走り出した。 ソフィアも足を必死に動かして、森へと急ぐ。

 群衆に押されながら、シリウスと森の奥へ奥へと進む。先ほど見た光景が脳裏から離れない。あの集団の仮面に見覚えがある。行き着いた発想に、 ソフィアは否定したい気持ちでいっぱいだ。

 突然、巨大な緑の光が空へと突き抜けた。

「あ……ああ……」

 空を見て、悲鳴にもならない震えた声が ソフィア の口から漏れた。それは、巨大なドクロを描いていった。エメラルド色の星のようなものが集まって描くドクロの口から、舌のように蛇が這い出している。真っ黒な空に、ギラギラと刻印された。

「い、いやああああああああああああ!」

 悲鳴をあげたのは、 ソフィアだけではなかった。森中で、爆発的な悲鳴があがった。

 闇の印だ! 死喰い人が、この森にいる!

 身体中が、まるで地震に遭っているかのように震える。ガチガチと奥歯がかち鳴り、 ソフィアの膝は笑い出した。この印を、 ソフィアは前に見たことがある。教科書でも、実際にでもない。吸魂鬼が呼び起こした、 ソフィアの遠い記憶の中で、両親の死とともに見た。

 人の死を見せしめるように、かつて数多く空に浮かんだ、例のあの人の印だ。このワールドカップにソフィアの友だとや大切な人が沢山いる。誰かが死んでしまったら……そう思うと、恐怖でおかしくなりそうだった。視界が歪む。

「 ソフィア、君は私が絶対に守る。大丈夫だ。
 すまない。ハリー……ハリーだけは見つけさせてくれ。彼も連れて、姿くらましをしよう」

  シリウスが安心させるように力強く、若干の哀願も込めた声で言った。 ソフィアは、シリウスの提案になんとか首を縦に振って頷いた。

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