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▼ クィディッチ・ワールドカップ5

 シリウスと ソフィアは急ぎ足でランタンが照らす道に沿って、森へと入った。たくさんの人混みに、油断をすればすぐはぐれてしまいそう。何百、何千もいる魔法使いは皆一様に興奮して、興奮したざわめきは波のように全体に広がっている。

 森の中をしばらく歩いて、視界が開けると、そこには巨大なスタジアムがそびえ立っていた。競技場を囲む黄金で装飾が施された巨大な壁は、 ソフィアが十分スタジアムから離れて立っているのに視界に収まりきる様子はかけらもない。この中に、ホグワーツまるごと――それどころか何個も入るだろう。一体、このスタジアムに今日何人の魔法使いがいるのだろうか。

「これは凄い規模だな」

 シリウスも驚いたように目を若干大きく開いた。そのまま人混みの流れに乗って、スタジアムの入口に向かう。中に一刻でも早く入りたい魔法使いで、より混雑していた。入り口にいる魔女にシリウスが切符を渡す。

「特等席! 最上階貴賓席! まっすぐ上がって、いちばん高いところですよ」

 切符を検めた魔女が言った。

 特等席!  ソフィアの開いた口は、ふさがりそうになかった。驚きで顎が力をなくしてしまったようだ。その様子にシリウスが笑う。促されるまま、深紫の絨毯が敷かれた階段を登っていく。階が上がるにつれ、徐々に人も減っていった。

 いよいよ最上階に着くと、そこは小さなボックス席になっていた。競技場の両サイドにある金色のゴールポストのちょうど真ん中で、紫に金箔の椅子が20席ほど並んでいる。 ソフィアがアスター家中の財産を使っても、こんな席で観戦なんて出来ないだろう。

 貴賓席にはファッジやブルガリアの魔法大臣もいる。それに加え、席にはウィーズリー家のみんなが座っていたものだから更に驚いた。

「ブラックさん、今日は来ていただいてありがとう。楽しんでいってくれ」

 ファッジは顔を引きつらせて、シリウスと握手をした。 ソフィアは、今朝シリウスが嫌だと言っていた握手写真の絵面を見事に再現していることに。失礼と分かっていても少し笑ってしまった。

 シリウスはファッジとの会話を早々に切り上げると、嬉々としてハリーの元へ歩いて行った。ハリーも嬉しそうに、出来たばかりの後見人に少し恥ずかしそうに笑って話しに応じている。今は、オツォの時の姿ではないのに、 ソフィアにはシリウスが尻尾を千切れんばかりに振っている幻覚が見えた。
 
 席はハリーたちの真後ろだった。シリウスは席に座って、身を乗り出してハリーとロンに反しかけている。 ソフィアも隣に着席して挨拶をしたところで、ドラコ・マルフォイと、その両親のルシウス・マルフォイとナルシッサ・マルフォイがやって来た。

 マルフォイ氏がファッジに話しかけると、ファッジは笑顔を浮かべてマルフォイ氏にブルガリア魔法大臣やウィーズリーおじさんを紹介した。瞬間、緊張が走った。 ソフィアもウィーズリーおじさんとマルフォイ氏が殴り合いの喧嘩を今始めるのではないかと落ち着かない気持ちになる。

「これは驚いた、アーサー、貴賓席の切符を手に入れるのに何をお売りになりましたかな? お宅を売っても、それほどの金にはならんでしょうが?」

「薄汚い狐め! その汚い口をこれ以上開くな!」

  ウィーズリー氏が反応するよりも先に、シリウスが吠えた。今にも殴りかかりそうな勢いだったので、 ソフィアはシリウスにしがみ付いて立ち上がるのを押さえ込まなければいけなかった。

 フレッドが――昨年までアズガバンの囚人として、殺人鬼としてこの世に名を馳せていた積年の偏見に怯みもせずに――、「やっちゃえ! シリウスさん!」なんて冷やかしを入れるものだから、 ソフィアは先ほど気まずいわねと二人で笑った事実も忘れて射殺すような目つきでフレッドを睨んだ。ハリーの助けもあって、シリウスは渋々座席についた。

 10年間あまり社会と断絶していると、たとえ2国の大臣の前でも恐れなくなるのかもしれない。シリウスの怒りの沸点の低さに、 ソフィアは切ないような、呆れるような、なんとも言えない気持ちになった。


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