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▼ クィディッチ・ワールドカップ4

 辺りが暗くなるにつれ、反比例するように、キャンプ場の騒ぎは大きくなっていく。あちこちで花火やあからさまな魔法が打ち上げられ、魔法省も騒ぎを鎮めることを諦めたように無法地帯だった。どうやら、太陽が姿を消すにつれ、魔法使いの慎みや遠慮も一緒に消えてしまったらしい。

 行商人があちこちに姿現わしをして、次々とカートに商品を広げ客を呼び込んでいる。カートにはたくさんの商品が所狭しと広げられ、それぞれ小山のように積み上げられている。

 アイルランドの緑と、ブルガリアの赤で埋め尽くされ、まるでクリスマスのような色合いだ。光るロゼットや踊る三つ葉のクローバーで覆われたとんがり帽子、ライオンの吠え声がするブルガリア国旗のスカーフ、国旗や箒の模型、ユニフォームのレプリカまである。

  ソフィアはいろいろ見て回り、いくつか気に入ったものを買った。最初はワンピースだけだったが、最後にはとんがり帽子にフェイスペイントにマフラータオル……と、緑色じゃない部分を探す方が難しい姿になっていた。

 カートの間を縫うように歩いていると、見慣れた赤毛の頭が2つ並んで見える。フレッドとジョージだ。

「やあ、 ソフィア」

 挨拶するかしないか迷っている内に、ジョージが手を上げて話しかけた。別れてから、こうしてフレッドとちゃんと話すのは初めてかもしれない。 ソフィアは気まずさを押さえ込み、いつも通りの笑顔を浮かべた。 ソフィア の身勝手で別れたのだから、気まずそうにする資格があるのはフレッドだけだ。

「久しぶり! 二人も来てたんだ、ロンたちも?」

「ママ以外みーんな! ハリーにハーマイオニーもいるぜ。パパが全員分の切符を手に入れたんだ」

  ソフィアの質問に、ジョージが聞いて驚けと言わんばかりに大げさな口調で言った。そんなに沢山のチケットを用意できたことはもちろん、一体金貨何袋必要になったのだろう。 ソフィアは驚きで目を丸めた。

「凄いわ! 私のママとパパはチケットを取れなかったのよ」

「シャフィクとかハッフルパフの連中に連れて来て貰ったのか?」

ソフィア の反応にジョージが首を傾げた。

「いいえ。シリウスが招待してくれたの。もう私嬉しくって! 沢山グッズを買っちゃったわ。二人は何か買った?」

 質問としては悪手だったかもしれないと言った後に気がついた。フレッドとジョージは、雑なフェイスペイントでアイルランドの国旗を両ほほに掲げてはいるものの、グッズらしきものは見当たらない。

「実は全財産掛け金にしちまったんだ」

 フレッドが初めて口を開いた。肩をすくめて、いつも通りを装っているが気まずさは隠しきれない。 ソフィアも困ったように目を泳がせた。

「だから、ウィンドウショッピングをしても辛いだけなわけだ。そういう訳で、俺は先に戻ってるよ」

 ジョージはため息をついて言うと、 ソフィアとフレッドが反応する隙を与えずに人混みに消えていった。残されたものの、前のように自然と会話が生まれず気まずい沈黙が陰を落とす。フレッドが耐えきれないように吹き出した。

「よそよそしいよな、今の俺たちって」

 フレッドが少し眉を下げて言った。

「じゃあ、私は……暑いわねって言うわ」

  ソフィアは近くの行商人が並ぶ列を見て、それからフレッドを見ておどけたように言った。わざとらしく手を団扇がわりに顔に風を送ってみる。我ながらわざとらしい上に突拍子もないと ソフィアは若干恥ずかしくなったが、フレッドはすぐに意図を察してくれたらしい。

「それなら、俺は、近くの店でアイスを買おうぜって提案するよ」

  フレッドが ソフィアが見ていた店の一つを指差した。二人揃ってぎこちない。お互いの様子に少し笑いながら「これって、いつもみたいなやり取りって言えるのかしら」「出だしとしては好調だろ」と言って、お店に向かって並んで歩く。

 注文した後に、フレッドが全財産を賭けてお金がなかったことを思い出して二人でヒイヒイと笑った。さっきお金がないと話したばかりだったのに!  ソフィア がアイスを二つ買って、フレッドに渡す。フレッドは恥ずかしそうだったが、にっこりと笑った。よく見る、悪戯っ子でお調子者のフレッドの笑顔だ。

「俺のお小遣い、凄い金額になってかえってくる予定だから、その時はとびっきりのお返しをするぜ」

 フレッドとアイスを食べたあとは、気まずさはほとんど消えたようだった。また時間が空いたら気まずい沈黙を迎えてしまうかもしれない。でも、この時だけでもいつも通り心の底から笑いあえることが ソフィアはとても嬉しかった。

 手を振って別れ、 ソフィアは急ぎ足にシリウスのところに戻った。シリウスはテントを出た時と違って全身緑色になった ソフィアを見て楽しそうに笑う。

 そのとき、どこか遠くからゴーンと鐘の音が響き渡った。同時に、木々の間に赤と緑のランタンが一斉に灯り、競技場へと続く道を照らしていた。暗闇に揺れるランタンの火に、会場はさらに熱気が増したようだった。


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