immature love | ナノ


▼ クィディッチ・ワールドカップ2

「試合会場にはどうやって行くの?」

 一階にいたシリウスと合流し、声を抑えて ソフィアは聞いた。

「魔法省が案内しているのは、姿現しか移動キーだ。私たちは移動キーで行く。ソフィアは姿現わしの試験はまだだっただろう?」

 シリウスは手元の懐中時計を見ながら言った。

「まだよ、今年受けるの」

  ソフィアは若干憂鬱になりながら答えた。チャーリーは一度試験に落ちていたし、どこかの誰かがまたバラけたなんて話もたまに両親から聞く。 ソフィア は器用なタイプではないので、なかなか難しそうだ。飛行術だって、もしOWL試験の科目であれば成績は『T トロール並み』に違いないだろう。

「言っておくが、難しい試験だ」

 シリウスは茶目っ気たっぷりに、私くらい優秀でないと合格は難しいと付け足した。 ソフィアが受かると思っている顔だ。 ソフィアが鈍臭いことを知らないからこんな風に言えるのだろう。シリウスが暗い廊下を足早に進み、玄関を出た。

「じゃあ、移動キーで行くのね?」

 立ち止まったシリウスに質問をする。

「その通り。もう直ぐのはずだ…… ソフィア、この懐中時計に触って」

「3……2……」

 シリウスが懐中時計を見たまま呟いている。突然だった。胃が引っ張られるような、姿くらましとも違う感覚。両足が地面を離れた。風がビュンビュンと唸り、青や緑と色の渦の中に放り込まれる。このままでは酔ってしまうと今までの経験が告げ、 ソフィアは慌てて目を閉じた。

 人差し指はまるで磁石のように懐中時計にピタリと貼り付いている。懐中時計が導いてくれているようだ。不思議と、ぐんぐんと前進して行く感覚がある。そして――地面に、体がぶつかった。

  ソフィアの視界に茶色い革靴が見え、シリウスは立っているのだと分かった。「旅路はどうだった?」と笑いを堪えきれない様子でシリウスは ソフィアに手を差し出した。シリウスの短く切られた髪が強い風に吹かれたのかぼさぼさになっていて、にっこりと歯を見せて笑っている。見せてくれたアルバムの写真のような、無邪気な笑顔だった。

「7時5分、グリモールド・プレイスからご到着」 アナウンスの声が聞こえた。

 シリウスに起こしてもらい、立ち上がった。辺りを見渡すが、霧深い。どうやら、相当辺鄙な荒地にでも到着したようだ。目の前に、魔法使い2人立っていた。ワザとらしい笑顔を浮かべている。

「ブラックさん、お早うございます。本日はようこそおいでくださいました」

 シリウスに話しかけた魔法使いは、ツイードの背広に太ももまでのゴム引きを履いている。マグルのふりをしているのかもしれないが、マグル学の教科書でも見かけたことがない奇妙な格好だった。

 もう一人、キルトにポンチョを着た人がシリウスから懐中時計を受け取って「使用済み移動キー」用の大きな箱に入れた。

「キャンプ場は、こちらから2番目です。管理人のペインさんのところまで、よろしければ私がご案内を――」

「いや、結構だ。心遣いに感謝するよ」

 シリウスは興味なさそうに遮った。 ソフィアはシリウスに促され、切りで包まれた道を歩き始めた。魔法使い2人が見えなくなったところで、シリウスがため息をついた。

「魔法省の”贖罪”と、手紙にも書いただろう。チケットが手に入ったのは喜ばしいが、極力関わりたくはない。

 『シリウス・ブラック、魔法省とクィディッチワールドカップを機に和解』なんて日刊預言者新聞の見出しや握手写真はできれば見たくないものでね」

 シリウスは肩をすくめた。確かに、新聞の一面に笑顔を浮かべたファッジとシリウスが握手を浮かべている写真が載っていたら、彼の脱獄生活の一部を見ていただけに複雑な気持ちになるだろう。 ソフィア は確かにそうだねと言って苦笑いを浮かた。

 霧の中をさらに20分ほど歩くと、小さな石造りの小屋が見えてきた。その脇には門があり、さらに向こうにはぼんやりと何百というテントが立ち並んでいるのが分かった。通り過ぎて、さらに30分ほど進めば、今度こそ ソフィアたちが滞在するキャンプ場へ辿り着いた。

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