▼ グリモールド・プレイス4
アルバムを見終えたソフィアに、シリウスは少し気まずげにノートの切れ端のようなものを渡した。少し癖のある筆記体で、走り書きのように「マーリン・マッキノン」と書かれている。
「私が学生の頃、アルバータから……貰ったものだ」
「貰った? お父さんは、こんなメモの走り書きをシリウスにあげたの?」
こんなメモ書きをシリウスにあげ、シリウスはそれを取っておいたというのだろうか。ソフィアは訝しげにシリウスを見た。
「……正確には、こっそりと拝借した」
シリウスは苦笑いを浮かべ、私の愚かしい過ちの一つだと言った。
「原点と罰則をアルバータに喰らって不服だった私は、こっそりとアルバータの寮の部屋へ忍び込んだ」
シリウスが紙をひっくり返したりして、何を考えているのか分からない表情でメモを見つめながら説明を始めた。
「その時に、枕の下にこのメモがあったんだ。君の母親の名前と、自分のラストネームを組み合わせて枕の下に置いてあった。夢見るティーンの女子のような事をしていると、弱みを握った気になった」
自分の父親がそういう乙女のような行動をしていたのかと若干の気恥ずかしさがあったが、ソフィアは話の続きを辛抱強く待った。
「私はその日、メモをこっそり盗んだ。そして誰もいない隙をついては、アルバータの寝室から同じようなメモがないか探した。アルバータに減点された時に、突き付けてやろうと思っていた」
シリウスは苦笑し、「すぐに乙女のジンクスではないと気がついたよ」と言って、他の切れ端をソフィアに渡した。渡された紙に目を通す。それぞれ、違う人の名前が書かれていた。
ドウェイン・アスター、オリヴィア・ホワイト、ジェームズ・ポッター、シリウス・ブラック――。
「最初は交渉材料くらいに考えていたが、出てきた紙はにどんな意図があるのかと最後は好奇心で動いていたよ」
「シリウス・ブラックと書かれたメモを見つけた日、アルバータは恐ろしいことにベッドの下に隠れていて、現行犯で私を捕まえた。
どのようにして知ったのかは教えてくれなかったが、私が来ることを最初から分かっていたと勝ち誇った顔で言っていた」
悪戯がバレた子どものような顔をしてシリウスが笑った。シリウスは最後の一枚をソフィアに渡した。
「私がこうして盗みを働いていた時、一枚だけ誰か分からない名前があった。これだ」
その紙には、「ソフィア・マッキノン」と他のメモより丁寧に書かれていた。
「君が森で探していたヒントが、この中にあると私は思っている」
シリウスの確信を秘めた声に、ソフィアは興奮とも恐怖とも言えない、言い知れないゾクゾクとした想いを抱えながらメモとシリウスを交互に見つめることしかできなかった。
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