▼ 夢の破片2
ソフィアはまるでマラソンを終えた直後のように乱れた呼吸で、なんとかベッドから這いずり出た。
昨日届いたばかりのセドリックからの手紙を見て、堪らず抱きしめる。涙でインクが滲んでしまっても、何度も何度もセドリックが生きている証拠を目に焼きつけた。
呑気にも、手紙の中のセドリックはつい先日贈った誕生日に貰った祝いの品について書いている。
親愛なるソフィア
誕生日プレゼントを有難う。目が覚めたら、窓枠にガニメドがとまっていたものだから驚いてベッドから転げ落ちたよ。
貰った箒磨きセット、早速使ったよ。前に使っていたものは最近ハサミの切れ味が悪くなって買い替えを考えていたんだ。もしかしてお見通しだったのかな? とにかく、凄い嬉しかった。大切に使うよ。
誕生日プレゼントに両親からクィディッチワールドカップのチケットを貰ったんだ。まさか自分が行けるとは思ってなかったから夢みたいだよ。
プレゼントを何がいいか聞かれた時にダメ元でお願いしてみて本当によかった。
イギリスが開催地になるのは30年ぶりだから、今回を逃したら行く機会はもうないかもしれない。
ソフィアのご両親も魔法省に勤めてるし、もしかしたら現地で会えたりするのかな?
沢山の感謝を込めて
セドリックより
よほど嬉しかったのだろう、滅多に自慢をしない――むしろ、ソフィアはセドリックが何かを自慢げにしている場面を見たことがなかった。
それも当然。クィディッチワールドカップの観戦券をエイモスおじさんが手に入れたというのだから! セドリックが喜ぶのも当然だ。文字も心なしか跳ねていて、いつもは整った綺麗な筆跡にクセが出ていた。
ソフィアも両親にお願いしてみたが、闇祓いの両親のツテがあっても手に入らなかったものだ。エイモスおじさんもセドリックのために相当張り切ったのだろうとソフィアは思った。
如何に行きたかったのか書き連ねてる手紙の、踊っているような文字をなぞる。ソフィアの涙のせいでインクは滲み、今や内容も読みづらくなってしまった。
それでも、楽しそうに跳ねる文字がソフィアにセドリックの生存を元気強く教えてくれた。涙を拭って、誰に言うわけでもなく「誰に相談しよう」とぽつりと呟いた。
――泣くなよ!
――セドリックがいればなんて、どうしようもないこと言っても仕方ないだろ!
先程の夢の中での会話、ギリアンの台詞に奇妙なデジャヴを感じた。ぐちゃぐちゃに洋服を詰め込んだ箪笥からお気に入りの靴下を探すように、必死に過去を思い返す。どこかで確かに聞いたセリフなのに、どこでだったのかを思い出せない。
過去にギリアンが言ったセリフそのままなのであれば、これが予知夢でない可能性も高まるだろうに。
もやもやとする頭の中と、今回の夢が予知夢だった場合に示す未来への恐怖心と、セドリックからの楽しそうな便りへの安堵感。
様々な感情がごちゃ混ぜになるが、ソフィアはひとまず返事を書くために便箋を引き出しから探すことにした。
prev / next