immature love | ナノ


▼ 犬の恩返し1

 全身が痛い。去年石になった時みたいだと ソフィア はぼんやり思った。段々と頭の中が鮮明になるにつれ、気を失う直前の出来事が映画のように脳内に映像なって流れていく。

 そうだ、ルーピンは実は狼男でシリウスの親友だった。シリウスは冤罪で、本当の犯人はピーター・ペティグリューだった。確かペティグリューは ソフィア と繋がれていたが――

  ソフィア はぱっと目を開け、ベットから起き上がった。

 周りは白く、おそらく医務室に運び込まれたのだろう。散々お世話になったので、見覚えがある景色だった。そばの椅子には、セドリックが座っていた。

「シリウスは? ルーピンは? それで、何があったの? 私なんで医務室に……」

  ソフィア が頭痛で頭を押さえながら矢継ぎ早に質問すれば、セドリックが近くでチョコレートを食べていたハリーとハーマイオニーの方へと振り返る。 ソフィア は何が何だか分からず、つられてハリーの方へ顔を向けた。

「セドリック、君が説明して上げて」

 ハリーはにやりと笑って、チョコレートを頬張った。

「いや、私からさせてくれ」

 低い声がした。落ち着いた声は、医務室のカーテンで遮られた一画からした。その声に、ハリーはぱっと顔を輝かせると、ベッドのカーテンを開けた。そこにいるのは、シリウス・ブラックではないか!

 逃亡中の彼がなぜ堂々と医務室に入院しているのか。疑問で間抜けな顔をしているだろう ソフィア を見て優しく微笑んだシリウスはベッドから抜け出すと ソフィア の方へやってきた。

「あの後、ペティグリューには逃げられ、私は捕らえられ、吸魂鬼のキスという処遇が決まったんだ。だが――驚くべきことがいくつも重なって事態が急変した」

 シリウスはいまだに信じられないという顔をした。

「まず、スネイプが私の無実とペティグリューの生存を証言したんだ!」

 寒気がすると言いたげな(とても感謝しているようには見えない)表情でシリウスは言った。彼曰く、証言するときのスネイプは、自殺するか証言するかで迷っているような悩ましげな表情だったらしい。

「ハリーとハーマイオニーが逆転時計を――ああ、過去に遡ることができる魔法道具さ――それを使って……ふふ、ヒッポグリフに乗って百を超える吸魂鬼に襲われていた過去の私たちを助けにきてくれた」

 なぜ吸魂鬼に襲われていたのだとか、なぜ逆転時計を持っていたのかとか聞きたいことは山ほどあったが、 ソフィア はひとまず頷いた。質問を出したらきりがないし、すでに頭がパンクしそうだったので頷くしかなかったとも言える。

「さらに! ハーマイオニー以外にも、逆転時計を使うほど勤勉な魔法使いがもう1人いた! セドリックだ。彼も授業をコンプリートする変わり者だったとは! ――犬の私に餌やりに来る時点で君もセドリックも変わっていることは承知していたが――彼も彼で、逆転時計を使ってペティグリューを捕まえてくれたんだ!」

 傑作だとシリウスは大笑いした。こんなに楽しいことは12年間ぶりだと言いたげな大笑いで、かつて見た美青年の面影を ソフィア は見た気がした。隣で、セドリックが恥ずかしそうにしている。 ソフィア は状況を全く整理できていなかったが、一つだけ気が付いて思わず目を輝かせた。

「それなら、あなたは無実が証明されたの?」

「ああ! そうとも! 君がスネイプを生け捕りにしてくれたお陰で、成人した職のある魔法使いの証言も得られ、実際にペティグリューをファッジの目の前に突きつけてやれた! 私は自由になったんだ。夢のようだ」

 薄い灰色の瞳がキラキラと輝いた。

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