▼ シリウス・ブラック10
ルーピンはペティグリューを紐で縛った。ルーピンはてきぱきとロンの足を副え木で固定し、ペティグリューを自分と ソフィア を繋いだ。ロンは自分を繋げてと申し出たが、魔法の実力的にも、けがの状況も考慮して、 ソフィア が繋がると申し出た。
「あの――スネイプ先生はどうしますか?」
ハーマイオニーが小声で言った。その言葉に、 ソフィア はカチリと固まった。先ほどまで全員がスネイプの存在を忘れていた、あまりにも静かだったもので。( ソフィア の使った縄が口元まで縛っているのだから当然ではある)
スネイプの瞳は、何を考えているのかわからなかったが、ブラックが担架を出しスネイプを縛られたまま乗せた。
「こいつは縄を解いた途端襲いかかって来る恐れがある。このまま城に連れていったほうがいい」
まるでスネイプを獰猛な野生動物のようにブラックはいった。少しばかり愉悦を瞳ににじませて、スネイプを見下ろしている。スネイプはもはや人を殺さんばかりの目でブラックを睨んでいた。
スネイプの視線が縄の所有者である ソフィア の方へと向けられそうだったので、 ソフィア は態とらしくルーピンの方を向いた。
クルックシャンクスを先頭に、 ロンとそれを支えるセドリックが続く。そのすぐ後ろは繋がれたルーピン、ペティグリュー、 ソフィア だった。ムカデ競争のように細い階段を繋がって降りた。その後ろをスネイプを乗せた担架、シリウス、ハリー、ハーマイオニーと続いた。
トンネルを戻るのは地獄だった。 ソフィア はルーピン達と横向きになって歩かざるを得なかったし、ルーピンはペティグリューに杖を突きつけたままだったので非常に遅かった。
トンネルを抜け、なぜだか分からないが暴れ柳はおとなしかったのでそそくさと木から離れた。校庭はすでに真っ暗で、あかりは遠くに見える城の窓からもれるものだけだった。
ペティグリューは隣でゼイゼイと息を切らし、たまに高い声を上げて泣く。それが ソフィア にとって不快で仕方なかった。生理的に無理なのだ。気持ち悪い。
みんなで城に向かっていた時だ、雲が切れ、明かりが差し込んだ。一行は月明かりを浴びた。
「逃げろ!」
ブラックの鋭い声が聞こえた。でも、 ソフィア は逃げることなんてできない。ペティグリューとルーピンと繋がれているのだ。ルーピンは唸り声をあげ、全身が大きく伸びた。背中が盛り上がり、全身毛むくじゃらになる。――狼男だ。変身したのだ。
「 ソフィア !」
セドリックの悲鳴じみた声が聞こえた。同時に、巨大な黒い犬が躍り出て、狼人間が手錠をねじ切ると同時に首に食らいついて ソフィア とペティグリューから引き離した。 ソフィア を守ってくれたのはこれで三度目だ。何度命を助けてもらったのか……。
セドリックが ソフィア の元へ駆けてきてくれた。セドリックの方を見た瞬間、ペティグリューに引っ張られて ソフィア はバランスを崩し転倒した。
ペティグリューがルーピンが落とした杖に飛びついたのだ! 同時に、バンという音と、目の前いっぱいに炸裂する光――最後に、セドリックが ソフィア の名前を叫んでいるのを聞きながら、意識を手放した。
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