▼ シリウス・ブラック8
「エクスペリアームス!」
「プロテゴ!」
ソフィア が投げ縄を使ったのと同時に、ハリー、ハーマイオニー、ロンの武装解除呪文、セドリックの防御魔法が飛び交った。セドリックの呪文は、呪文のほとんどを弾いたが、ハリーの放った呪文はスネイプに直撃した。
いくら武装解除とはいえ、3人分の魔法が一気に当たったらどうなっていたのかと ソフィア は冷や汗をかいた。セドリックのことだから、3人が同時に何か呪文を唱えそうだと気づいてスネイプを庇うように動いたのだろう。スネイプは縄でぐるぐる巻きにされ、床に倒れこんだ。杖はハリーの手元にある。
「お前達――」
スネイプが怒鳴ろうとしたが、縄が口元まで勝手に届いて彼の口を塞いだ。 ソフィア はそれを気づかないふりをしてルーピンの縄を解いた。セドリックはそんな ソフィア をぎょっとした様子で見ていた。
「そのネズミ、指が一本ないだろう。あいつを追い詰めた時、あいつは道行く人全員に聞こえるように叫んだ。私がジェームズとリリーを裏切ったんだと。
それから、私がやつに呪いをかけるより先に、やつは隠し持った杖で道路を吹き飛ばし、自分の周り5、6メートル以内にいた人間を皆殺しにした。――そして素早く、指を切り落とし、ネズミがたくさんいる下水道に逃げ込んだ……」
ブラックは静かに語った。もしこれが事実であれば、 もしソフィア 自身が経験していれば、こんなにも冷静に淡々と説明できなかった。ブラックは静かに殺意を漲らせた目でスキャバーズを見つめながら、静かに語るだけだった。
ソフィア とセドリックは口を挟まず、静かに説明を聞いていた。ハリーとロンが食ってかかっているので、これ以上何か発言しては話が二転三転してしまうとも思ったからだ。
「ブラックが秘密の守人だったんだ! 僕の両親を、ヴォルデモートに売った!」
ハリーが叫んだ。彼がブラックに対して感情的になる理由が、先ほど僕の倒産と母さんを殺したと叫んでいた理由がわかった。秘密の守人だったのなら、ブラックは彼の両親の一番信頼を置ける人物だったんだろう。それを裏切られたとなっては、そのせいで実の両親が死んだとなっては、激昂するのも当然だった。ハリーの言葉に、ブラックの目が潤んだようだった。
「ハリー……わたしが殺したも同然だ」
ブラックの声はかすれていた。
「最後の最後になって、ジェームズとリリーに、ピーターを守人にするように勧めたのはわたしだ。ピーターに代えるように勧めた……わたしが悪いのだ。
たしかに……2人が死んだ夜、わたしはピーターのところに行く手はずになっていた。ピーターが無事かどうか、確かめに行くことにしていた。ところが、ピーターの隠れ家に行ってみると、もぬけの殻だ。しかも争った跡がない。
どうもおかしい。わたしは不吉な予感がして、すぐ君のご両親のところへ向かった。そして、家が壊され、2人が死んでいるのを見た時――わたしは悟った。ピーターが何をしたのかを。わたしが何をしてしまったのかを」
ブラックは涙声になり、顔を背けた。
「話はもう十分だ」
ルーピンが遮った。ルーピンの声は、これまで聞いたことがないような、情け容赦のない響きがあった。
「本当は何が起こったのか、証明する道は唯一つだ。ロン、そのネズミをよこしなさい」
ロンは迷っていたが、とうとうスキャバーズを差し出し、ルーピンが受け取った。スキャバーズはキーキーと喚き続け、小さな黒い目が飛び出しそうだった。
ブラックとルーピンの杖から青白い光がほとばしった。一瞬、スキャバーズは宙に放り出され、小さなネズミの姿から――頭が床からシュッと上に伸び、手足が会え、次の瞬間、小柄な男が現れた。小さな男で、禿げていた。尖った鼻や小さい目は、どことなくネズミっぽい男だった。
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