▼ シリウス・ブラック6
ルーピンの言う”あいつ”が誰なのかはわからなかった。ブラックはルーピンの疑問に対して、ロンを指差したが、ルーピンはロンではなくその場に誰かを透かして見ているような表情だった。
「あいつがそうだったのか……もしかしたら、君はあいつと入れ替わりになったのか……私に何も言わずに?」
ルーピンが驚愕に震えた声をあげた。それをじっと見つめたままブラックはゆったりと頷く。ルーピンは杖の構えをとくと、ブラックを――まるで兄弟相手のように、抱きしめたのだ。
ソフィア は声にならない絶望に襲われた。ハーマイオニーが「先生はその人とグルなんだわ!」と叫んだ。ルーピンが宥めようとハーマイオニーに声をかけるが悪影響で、ハーマイオニーの叫び声は大きくなるばかりだった。
「ハーマイオニー、話を聞いてくれ! 頼むから! 説明するから――」
ルーピンも叫んだ。その叫びはどこか子供をなだめすかすような、言い聞かせせるような響きを含んでいた。
「この人はブラックが城に入る手引きをしてたのよ。この人もあなたの死を願ってるんだわ。――この人、狼人間なのよ!」
痛いような沈黙が流れた。すべての目がルーピンに集まった。まるで、今にもルーピンが返信してしまいそうだと思ってさえいそうな雰囲気であった。生徒からの怯えや驚愕の視線に、ルーピンは蒼ざめてはいたが、落ち着いていた。
「いつもの君らしくないね、ハーマイオニー。残念ながら、三問中一問しか合っていない。私はシリウスが城に入る手引きはしていないし、もちろんハリーの死を願ってなんかいない……」
ルーピンの顔に奇妙な震えが走った。
「しかし、私が狼人間であることは否定しない」
「先生はずっとこいつの手引きをしてたんだ!」
ハリーがブラックを指差して叫んだ。ブラックは、天蓋付きベッドのほうに歩いて行き、震える片手で顔を覆いながらベッドに身を沈めた。クルックシャンクスがゴロゴロと喉を鳴らして、甘えるようにブラックの傍に寄り添った。ロンが折れた足を引きずりながら、ベッドからじりじりと離れた。
「私はシリウスの手引きはしていない。訳を話させてくれれば、説明するよ。ほら――」
ルーピンは5本の杖を1本ずつ放り投げて持ち主に返した。 ソフィア も他の4人も呆気にとられて杖を受け取った。
「ほーら、君たちには武器がある。私たちは丸腰だ、聞いてくれるかい?」
ルーピンは自分の杖をベルトに挟み込んだ。 ソフィア はセドリックと目配せして、杖を構えてそれぞれブラックとルーピンに向けた。
「ハリー、先生の言い分も聞きましょう」
目線はブラックたちから外さず、 ソフィア は言った。 ソフィア の言葉にハリーは頷いて、ルーピンに向き直った。
「ブラックの手助けをしていなかったっていうなら、こいつがここいいるって、どうしてわかったんだ?」
「地図だよ、『忍びの地図』だ。事務所で地図を調べていたんだ――夕方、地図を使って見張っていたんだ。君と、ロン、ハーマイオニーが城をこっそり抜け出して、ヒッポグリフの処刑の前にハグリッドを訪ねるのではないかと思ったからだ。思った通りだった。――まさか、ハッフルパフの優秀な監督生2人が合流するとは思っていなかったがね」
ルーピンの言葉に、 ソフィア とセドリックは少し肩を縮こませた。確かに、取り締まる側の2人が一緒になって夜間に出歩いていては面目がただない(といっても、これはブラック対策の特別措置で、校則で禁じられるほどの夜更けではないのだが。)
prev / next