▼ シリウス・ブラック4
セドリックは杖を戦闘を始める直前のように構えて、ドアをバッと蹴り開けた。彼には珍しく、荒々しい雰囲気で目つきを鋭く細めていた。 ソフィア はハーマイオニーとハリーを後ろに連れ、セドリックの後に続いた。この状況で、3年生の2人を危険な目に遭わせるわけにはいかない。神経が研ぎ澄まされるような感覚があった。
埃をかぶった分厚いカーテンのかかった四本柱の天蓋付きのベッドにクルックシャンクスが寝そべっていて、ゴロゴロと鳴いた。その脇の床には、妙な角度に曲がった足を投げ出して、ロンが座っていた。
ソフィア の制止は間に合わず、ハリーとハーマイオニーはロンに駆け寄った。
「ロン――大丈夫?」
「犬はどこ?」
「犬じゃない――ハリー、罠だ」
ハリーとハーマイオニーの問いかけへのロンの返答に、 ソフィア は床に必死に目を凝らした。ロンの元から、犬の肉球の足跡が ソフィア 達の背後の扉に続いている。その足跡は、人間の靴の跡へと変わっていた。
「あいつが犬なんだ……あいつは『動物もどき』なんだ……」
ロンの声に、 ソフィア は冷や汗が垂れた。去年まで見かけたこともなかった犬、それを初めて見てからシリウス・ブラックの校内での目撃情報が相次いだではないか――。
影の中に立っていた男は、4人が入ってきた扉をぴしゃりと閉めた。汚れきった髪がもじゃもじゃと肘まで垂れている。目がギラギラと光り、こちらを見つめていた。ニヤリと笑うと黄色い歯がむき出しになる。
「エクスペリアームス!」
「プロテゴ! ステュービファイ!」
ブラックの持つロンの杖を四人に向け、ブラックがしわがれた声で唱えた。ハリー、ハーマイオニー、 ソフィア の手から杖が飛び出し、高々と宙を飛んでブラックの手に収まった。
セドリックが防御魔法を使い、続けて赤い閃光が杖から走った。しかし、ブラックは無言呪文で何やら杖を振ると、セドリックの手元から杖が弾かれた。
「君なら友を助けに来ると思った」
かすれた声だった。長いこと喋らなかったせいで、声の使い方を忘れてしまったような響きだった。ブラックは何かを懐かしむようにハリーをじっと見つめ続けたまま、彼の父親について言及した。
それに反応したハリーが激昂して今にもブラックに飛びかかりそうで ソフィア は肝が冷えたが、ロンとハーマイオニーが彼を掴んで引き戻してくれた。
「今夜はただ一人を殺す」
ブラックがニヤリと笑った。あくどい笑みだった。
「この前はそんなこと気にしなかったはずだろう? ペティグリューを殺るために、たくさんのマグルを無残に殺したんだろう?……どうしたんだ。アズガバンで骨抜きになったのか?」
ハリーは必死にロンとハーマイオニーの手を振りほどこうとしながら、吐き捨てるように叫んだ。
「ハリー! 黙りなさい!」
ソフィア が叫んだ。この目の前の殺人鬼を刺激するなんて自殺行為をなぜするのか、 ソフィア には到底理解できなかった。「ハリー、相手を挑発してどうするんだ」 セドリックもハリーに言い聞かせようとさらに続けた。
「こいつが僕の父さんと母さんを殺したんだ!」
ハリーは大声をあげ、叫ぶように言った。ハリーの慟哭にも近い叫びに ソフィア もセドリックも動揺し、反応が遅れた。その隙にハリーはロンたちの手を振りほどくと、ブラックに向かって飛びかかった。
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