▼ 森の噂5
翌日、ホグワーツ城中のすべての場所の警備が厳しくなっていた。
教室に限らず――なんとトイレの個室のドアでさえ――ドアというドアにシリウス・ブラックの大きな写真を貼りだされたし、フィルチはぴりぴりといらだたしげな雰囲気を醸し出しながらせわしなく隙間やネズミの入り口にいたるまで、穴という穴に板を打ち付けるのに忙しそうだった。
グリフィンドール塔の入り口はトロールが複数人体制で守っているなんて噂だ。今にグリンゴッツのようにドラゴンさえ雇いかねないと ソフィアは思った。こんなに騒がしくては、昨日のフィレンツェの会話に気をとられる隙もない。
なぜこんな事態になったのかは、調べなくても ソフィアの耳に入った。シリウス・ブラックにロンが殺されかけたというのだ! その噂を知った瞬間 ソフィアは顔を青ざめさせてロンの無事を確認しに言ったが、彼は人だかりの中心で楽しそうにしていた。
「やあ、 ソフィアも聞きたいの? 僕が寝てたら、ビリビリって何かを引き裂く音がしたんだよ。僕、夢だろうって思ったんだ。だってそうだよね? だけど――」
ロンは語り部の才能があると ソフィアは思った。恐ろしい事件である子は間違いないが、ロンが注目を浴びることを楽しんでいるようでさえあるので毒気が抜かれてしまった。
今だって、 ソフィアと2年生の女の子に臨場感たっぷりに話して聞かせてくれている。1回めは聞き入ったが、恐ろしいことに論のトークはリピート機能付きだったらしい。 ソフィア はそそくさとその場を離れた。
「いよいよ怖いわね、昨日一人でオツォに会いに行った時、間違ってもシリウス・ブラックと鉢合わせなんてことにならなくて良かったわ」
ハッフルパフのテーブルに着き、牛乳をグラスに注ぎながら言った言葉にセドリックがぎょっとしたようにこちらを見た。なんで一人で行ったのかと言いたげな視線だったので、 ソフィア は肩をすくめて誤魔化すしかない。
その2日後、ネビルに吠えメールが届いたり、グリフィンドールはレイブンクロー戦後ずっとホグワーツの話題の中心だ。朝食のトーストを齧りながら、ブラックに関しての魔法省の失態を永遠と叩いている日韓預言者新聞に ソフィアは目を落とした。
「捕まるリスクを犯してグリフィンドール塔に2回も入ろうとするなんて、何か目的があるのかな」
セドリックは牛乳をコップに注ぎながら、頭をひねった。 ソフィアが持つ新聞の裏面にいたブラックと目があったのかもしれない。
「ハリーが狙われてるんじゃないかって思うわ」
ソフィアは言った。脱獄がわかったときだって、ハリーはとっておきの警護がついていた。
「でも、それなら今回の事件でロンを殺して、そのままハリーを殺すことだってできたはずなんだ。それに、彼は10人以上のマグルを殺してるブラックが今更学生を一人殺すことだって抵抗なんて感じないよ」
「じゃあ、殺すことじゃなくて、何か探し物をしてるのかも!」
セドリックの推察に、 ソフィアは閃いたと言わんばかりに発言したが、ギリアンが「稀代の凶悪犯が3年生の男子寮に何を探しに来るんだよ」と欠伸をしながら言ったので、推理はやめて食事を再開することにした。
「そういえば、この後オツォにご飯をあげてくるわ。この状況でひとりにさせとくのも心配だし」
思い出したような ソフィアのセリフに、セドリックは「ひとりじゃ危ないから行くとき声をかけてね」と言った。先日黙って餌やりに行ったせいで、セドリックは相当心臓に傷を負ったらしい。彼にしては珍しい恨みがましい目で、 ソフィアをじとりと見るので苦笑いするしかなかった。
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