immature love | ナノ


▼ 森の噂4

 オツォが開けた場所で立ち止まると、 ソフィアに向かって飛びついてきた。 ソフィアの腕やら手を甘噛みし、――先ほどとは比べ物にならないほど優しい響きではあるがが――怒ったようにワンワンと吠えて来る。

  ソフィアはオツォが飛びかかってきた拍子に倒れたが、甘噛みされるくすぐったさにくすくす笑った。禁じられた森ではなく、まるで花畑にいるような優しい気持ちになる。一人で森に入ってきた危機管理能力に欠けた行動をした ソフィアにオツォは随分とお冠らしい。

 オツォの濡れた鼻先に ソフィアはキスをする。残念ながら、カエルの王子様のように人間には戻ってくれなかったが、オツォはひとまず怒りを鎮めてくれたのか ソフィアから1、2歩下がったところでお座りした。

「ふふ、やっぱり私じゃなくてお姫様のキスじゃないと人間には戻れない?」

  ソフィアが笑うと、オツォは困ったように耳を伏せて尻尾を大きくゆらりゆらりと揺らした。「さっきのあなた、王子様みたいにかっこよかったわ」と言えば、オツォはワン!と吠えるものだから可愛らしさについ笑った。

「実はね、フィレンツェっていうケンタウルスに会いたくて森に入ったの」

 犬に言っても通じるのか分からないが、 ソフィアは説明した。

「こんにちは」

 落ち着いた声がした。懐かしい声に勢いよく振り返ると、フィレンツェがいた。一歩一歩優雅にこちらへ歩み寄る。明るい金髪に、プラチナブロンドの胴。以前見た時と姿変わらず、美しいケンタウルスだ。髪は肩にかかるほどあり、柔らかな曲線を描いていた。

「 ソフィア 、私が君に伝えられることは少ない」

 透き通るような瞳は、木々をすり抜けてきた光に照らされてきらきらと輝いている。彼は、瞳と同じ見透かすような静かな視線で ソフィアをじいと見つめた。

「父のこと……アルバータ・マッキノンについて知っていることを教えて欲しいんです」

「彼は、我々のように星を見るわけではなく、夢を読み解いていました」

 フィレンツェの瞳がやんわりと三日月のように細まり、口元は弧を描いた。

「夢で人の未来を見るにはどうするのか、夢と予知夢の区別の仕方を父は言っていましたか」

  ソフィアが一番聞きたかったことだ。 ソフィアは予知夢かもしれないと思ったものを何度か見たことがある。実際にそれが現実となってから、予知夢だったと知ったことも、予知夢に違いないと決めつけて動いたこともあった。

 だが、見え方は ソフィア視点であったり、第三者視点であったり……いつも違う。どれが予知夢なのか、 ソフィアには見当がつけられなかった。

 フィレンツェは ソフィアの質問には答えず、星を見上げた。いくら待っても返事が返ってこない。「あの……」と ソフィアが遠慮がちに声をかければ、 フィレンツェは星を見上げたまま口を開いた。

「星には沢山の読み方がある。じっくりと見たい星を眺め、様々な読み解き方をします。そうして未来を見つめるのです」

「私が聞きたいのは星ではなく予知夢なんですが」

 答えになってないフィレンツェのセリフに、 ソフィアは思わず礼儀も忘れて言った。フィレンツェはただ微笑むだけで、背中を向けて歩き出した。こちらを一度だけ振り返った。

「夢と星、何が違うと言うのでしょう」


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