▼ 森の噂3
ソフィアは、試合の終わりにこそこそと皆から離れてそのまま競技場から禁じられた森へと足を向けた。フィレンツェに会いたかったのだ。ただでさえ、最近のホグワーツは外に出にくい雰囲気に包まれているので、これ幸いと ソフィアは箒置き場を通り越して森へと向かった。
薄暗い森も、昼間の中で見れば少しは不安が和らぐ。少なくとも、満月の夜に現れる狼男は昼間は活動しないはずだ。 ソフィアが一歩進むたびに、落ち葉が擦れる音を立て、不安を掻き立てた。
ケンタウロスに会うには、森の奥へ進まなくてはいけない。以前、2年前にセドリックと ソフィアがフィレンツェに会った時も大分歩いていたはずだ。
奥へ進めば進むほど暗くなる森に、 ソフィアは「ルーモス」と唱えて杖に灯をともした。その時だ。ガサリとひときわ大きく落ち葉が音を立てた。 ソフィアがいる右斜め前の方角からだった。
音の下方向へ杖を構え目を凝らせば、大きな蛇が姿を現した。深い緑色の鱗で覆われていて、胴回りは ソフィアの腕くらい太い。長さは分からないが、鎌首が三角形でないから、毒がある可能性は幾らか下がったことに安堵した。絞め殺すにも十分な力強さは備えていそうなのでとても安心できる状況ではないが。
蛇はゆっくりとS字を描きながら滑らかにこちらへ滑り寄って来る。 ソフィアが後ろへと後ずさるスピードよりもずっと早い。蛇に獲物として狙われていそうというただでさえ最悪な状況から、さらにどん底に陥った。
木の根に足を取られ、バランスを崩した。その上転んだ拍子に杖を落としたのだから!杖は ソフィアから離れた場所に落ちたわけではないが、蛇がいる方向へと落ちた。最悪である。
杖を拾うのが先か、その腕を蛇に噛まれるのが先か、どちらの未来に転ぶのか分からないほど蛇は近づいていた。突如、背後から大きく低い唸り声がした。第三勢力のお出ましである。 ソフィアが思わず目を瞑った瞬間、蛇と犬の戦うシャーッという独特の音やバウワウと威嚇する音が聞こえた。
恐る恐る目を開けると、オツォがいるではないか!
黒く大きな犬は、尻もちをついた ソフィアよりも背が高い。いつも ソフィアに見せない鋭い牙をむき出しにして、蛇に襲いかかっていた。 ソフィアもその隙に慌てて杖を拾い上げ、蛇に向けて振る。
蛇を蝶々結びにし、 ソフィアは駆け出した。振り返れば、ちゃんとオツォもついてきている。
「オツォ! ありがとう、大好きよ!」
「ワン!」
走りながらすぐ後ろを走るオツォにお礼を言えば、嬉しそうにワンと吠えた。オツォがあらん限りに尻尾を振り、そのまま ソフィアの前に踊り出す。 ソフィアは無我夢中でオツォの後を追いかけて走り出した。
森は奥へ進めば進むほど暗くなっていく。ローブも先ほど転んだせいで泥だらけ、落ち葉だってたくさんついた。それでも、オツォが近くにいるだけで先ほどよりも心は明るくなる。
オツォの後ろ姿を必死に追いかけながら、 ソフィアは思わず笑った。ピンチに颯爽と駆けつけて助けてくれるだなんて、まるで、王子様みたい。おとぎ話にあるように、キスしたら人間に戻ったりしないのかしら?
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