▼ クリスマス3
談話室に戻って、再び( ソフィアは受け入れ難かったが)試験勉強を始めたときセドリックがじっとこちらを見つめていたのに気づいた。どうしたのと首を傾げれば、 セドリックは瞳を右から左へ、左から右へと滑らせてから思い切ったように ソフィアの目を見つめた。
「マッキノンってやっぱり君のお父さんだったの?」
静かな、でもどこか確信めいた口調だった。
――さようなら、マッキノンの子よ。私は一度、惑星の読みを間違えたことがある。今回もそうなりますように
――マッキノンって、誰のことを言ったのかな
――誰かと、勘違いしてたのかも
あの時のフィレンツェとの会話が脳裏をよぎる。そうだ、あの時マッキノンと ソフィアの実の両親の姓で呼ばれたのだ。ダンブルドアとの会話で、なぜ父の知り合いだなんて情報を自ら言ったのか。これではセドリックに自ずからバラしたようなものだ。
マッキノンについて説明するには(もちろん予知夢については省略しても)、死喰い人に実の両親が殺されていること、今の両親とは繋がっていないことをセドリックに打ち明けなくては行けない。
でも、この ソフィアの秘密をセドリックに言うこと自体には抵抗なんてなかった。彼は誰かに ソフィアの秘密を漏らすような人ではない。破れぬ誓いなしでも、彼は ソフィアとの約束は絶対に破らないような人だ。
ソフィアが気にしていたのは、セドリックが ソフィアが黙っていたことやあの時の質問に嘘をついていたことに傷つくかもしれないことだった。
「黙っていて御免なさい。あのね――」
「ごめん、本当は、言わなきゃいけないのは僕だ。君の本当のご両親がマッキノンさんだって、知ってた」
セドリックは ソフィアの言葉を遮るように言った。申し訳なさそうにするセドリックに、今度は ソフィアが戸惑った。
「君が知らないところで、君の秘密を知ったことが後ろめたくて言えなかったんだ」
眉を下げて申し訳なさそうにセドリックが言ったのは、 ソフィアが石化している間の出来事だった。 ソフィアが石化する直前までセドリックといたこと、ディゴリー家は純血であること……色々と重なって、フレッドがセドリックに怒りをぶつける形で ソフィアがマグル生まれであることを伝えたらしい。
「怒らないわよ、それにもしこの件で怒るとすれば相手はフレッドになるわね」
ソフィアはふふふと少しばかり楽しそうに笑った後、気遣わしげにセドリックを見た。
「ずっと、私から打ち明けるのを待っていてくれたの?」
沈黙は肯定を語っていた。 ソフィアもセドリックも、お互いの関係を言い表す時に”親友”という言葉を使いがちだった。仲良しで、信頼できて、なんでも相談できる相手だと。
親友なんだから何もかも共有すべきとは言わないが、秘密を第三者から知らされ、いつか言ってくれるかもと待ちながら、結果的には仕方のない成り行きで秘密を打ち明けられたら――どんな気持ちになるだろう。
「セド、あなたのことを信頼してないから黙っていたわけではないの。
言い訳にしかならないけど、あの頃は養子である事実を言うのは、彼らの娘じゃありませんって自分で宣言してしまうような恐怖感が少しあったの」
気遣わしげなセドリックの視線に、今は大丈夫と ソフィアは首を振った。
「だから、あの時言い出せなかったのは私自身の問題で、私とセドリックの関係性なんて関係なかったの。フレッドが知っていたのは、赤ちゃんの頃から家族ぐるみの付き合いでウィーズリー家はみんな知っている事実だったから」
言い訳がましいと自分でも思いながら ソフィアは続けた。
「セドリック、あなたは私にとって誰よりも信頼できるかけがえのない存在よ。もう一度言うけど、信頼できないから秘密にしていたわけでは決してないわ。こんな形で傷つけてごめんなさい」
「君がいくつ秘密を抱えていても、僕に言わなくても罪悪感なんで覚えないで。
それより僕はね、まだ誤魔化せる状況だったのに僕に誠心誠意事情を説明してくれた君の優しさが嬉しいんだ」
これで勉強再開かな? と首を傾げたセドリックは、教科書を開いた。少しばかり耳が赤くなっているが指摘するのはやめた。きっと ソフィアも同じようなものだったから。
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