▼ 親友4
朝、レティとマルタは起こさないように帰省してしまったらしい。 ソフィア らしくを忘れずに!よいクリスマスを!なんて優しいメッセージカードが二人の署名入りで脇の机に置かれていた。
休日初日、今年はブラックのこともありリストに名前を記していたのは ソフィアだけだった。やはり、休日初日は寮の中は静かだった。魔法植物がたまにしゃべる声が聞こえるばかり。2年前も一人だったが、あの時はグリフィンドール塔に居座ってばかりで寂しさを感じる余裕はなかったなと思い出す。
暖かい暖炉の前の肘掛け椅子を陣取って、せっかくだからとOWLに向けた試験勉強に取り組んでいると、扉が開く音がした。今年残るのは ソフィアだけのはずで、しない筈の第三者が発する音に体を固まる。
記事に載っていたブラックの名前が脳裏をよぎる。彼がヴォルデモートの僕であるなら、ソフィアを狙う可能性だってあり得ると考えていた。予知夢のことを知っているのはソフィアと両親のみといえども。
勢いよく振り向き杖を構えると、談話室に入って来たセドリックと目があった。目を丸くしておどろしている。
「あー……ごめん、驚かせちゃったかな」
驚かせたことに申し訳なさそうに(杖を向けられていることに気まずそうに)セドリックは謝るので、 ソフィアは慌てて首を振った。
「セド、あなた帰ってなかったの?」
名簿には確か名前はなかったはずだ。セドリックは、急遽ディゴリーおじさんが仕事で……とごにょごにょ残ることになった理由を言い訳がましく述べた。珍しい姿にソフィアは目を丸めた。
「……ただ、謝りたかったんだ。僕が君と一緒に森に行ったから、ウィーズリーを怒らせたのかなって。だから、僕のこと避けてるんだろ?」
半ば確信があるような言い方だった。黒い瞳が、黒曜石のように光をキラキラと反射させる瞳が、まっすぐに ソフィアを射抜いた。
ソフィアが森に行く時、セドリックのことを誘った回数も誘われた回数も半々だった。なにも、セドリックが無理やり付いてきたわけでもない。それなのに……セドリックは全部自分が悪かったと、ごめんと、謝ってしまえるのか。不満も全部飲み込んで。
「謝らないで!」
ソフィアの否定は悲鳴に近かった。今回 ソフィア がセドリックを避けるに至った理由なんて、完全に ソフィア に原因がある。彼が全部を飲み込んで謝って、それで丸く収めるだなんて耐えられなかった。
「……詳細は言えないんだけど、私が一人で色々悩んでただけなの。あなたに悪いところなんて、ましてやあなたが謝らなきゃいけないことなんて一つもないわ!
私の勝手な都合で振り回して、ごめんなさい。傷つけたわよね。許してくれなんて言えないけど、できれば――」
未練がまさしくなってしまった。ソフィアは、回りくどい言い方しかできない自分に嫌気が指しそうだ。
「僕とまた親友に戻って欲しいな」
セドリックが ソフィアのセリフの続きを引き取った。にっこりと浮かべた笑みはいつものセドリックの笑顔そのもので、 ソフィアは堪らず笑顔を浮かべた。
「よろこんで」
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