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▼ 零れ落ちゆくもの3

 連日雨が続く中で、今日は快晴と言えずとも曇りでなんとか天気は持ちこたえていた。 ソフィアが校庭を横切るように進んでいけば、森のそばに黒い大きな塊がいた。

「オツォ!」

  ソフィア の呼びかけに答えるように、私とセドリックの姿を認めた途端走り寄ってくる。飛びついてきた巨大な犬に、支えきれずバランスを崩して後ろに倒れそうになった ソフィアを、倒れないようにセドリックが腕を回して支えてくれる。

「セド、ありがとう」

  ソフィアのお礼に微笑みを浮かべたセドリックは、「いきなり飛びついちゃダメだよ」と優しく言いながらオツォの頭をくしゃくしゃと撫でた。その声にワンと元気よく応え一歩下がっていい子におすわりするオツォに、微笑んだセドリックはバスケットの中から生肉を取り出した。

 がつがつと勢いよく食べる姿を見ながら、周りを見渡すとビン洗いブラシのような尻尾をゆらゆら揺らしたオレンジ色の毛足の長い猫がゆったり此方へ歩いてくる。ニャアニャアと、潰れたような顔をくしゃりと歪めて鳴いている。クルックシャンクスだ。オツォはクルックシャンクスの鳴き声に、バウワウと低めの野太い声で応えた。

「この子、確かハーマイオニーのペットよ。オツォと友達なのかしら?」

「もしかしたら、オツォはグリフィンドール生のペットなのかな……それにしては……」

 セドリックが言いたいこともわかる。生徒はペットを多く連れてきているし、森や校庭にも魔法生物は多くいるが、やはりペットと野生動物では相入れないのか仲良くしている姿はあまり見ない。

 となると、オツォはやはりホグワーツ生のペットであることが有力になるのだが、それにしてはいつもお腹をすかせているし、毛並みも悪い。放置されていると言っても強ち間違ってはいないだろう。

 あまり虐待と言ってもいいような放置具合に ソフィアとセドリックは眉をひそめた。

「オツォ、あなた誰かのペットなの?」

 ソフィアの質問にオツォは答えず、代わりに残りの肉が入っているバスケットに向けて前足を伸ばし、尻尾を振った。答えるつもりはどうやらないらしい。苦笑したセドリックが、バスケットから肉を取り出して地面に置いてやる。

 念のためクルックシャンクスにも食べるか聞いてみたが、ニャアと鳴きながら首を振って、差し出された肉をオツォの前に置かれた肉の山に加えた。なんとも賢くて優しい猫だろう!

 オツォが地面に伏せて、肉を味わうように噛みしめる。先ほどよりは幾分か勢いが収まっていることから、空腹が多少はマシになったに違いない。肉に夢中なのをいいことに、 ソフィアは持ってきていたブラシでオツォの毛並みを梳かしていく。

 ギトギトしていてすぐ絡まってしまうので、痛みを感じないように優しく短くと、 ソフィアはゆっくりと撫でるようにオツォの毛並みを手入れした。尻尾を大きくゆらゆらと揺らしているから、嫌ではないみたい。

 オツォのリラックスしたよにうに伏せて肉を食べていた姿から一変、耳をピンと立て、数枚の肉を一度に口で咥えるといきなり立ち上がって森の中へと駆けて行ってしまった。

 嵐のように去って行く後ろ姿に目を丸くしていると、少し離れた場所から「 ソフィア!」と叫び声にも近い切羽詰まった声が聞こえた。

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