immature love | ナノ


▼ 零れ落ちゆくもの1

「おかえり、 ソフィア」

 医務室を無事に出ることができた ソフィアが浮き立つ心を抑えながらハッフルパフの寮へと戻るとセドリックが座ったまま出迎えた。珍しく制服姿ではなく私服の上から暖かそうなガウンを羽織っているセドリックは、黄色と黒のふかふかの肘掛け椅子に体を沈ませている。木目調の壁にある丸窓から差し込む陽光に照らされ、グレーの瞳がキラキラと輝いていた。頬は少し赤い。

「ただいま、セド。寒そうね?」

「クィディッチで濡れたせいかな、最近寒気が酷いんだよ」

 困ったと言いたげに首をすくめたセドリックの近くのテーブルにはやりかけのレポートと羽ペン、開いたままの教科書が雑に置かれている。 ソフィアはため息を吐きたくなった。これは嫌な予感がする。

「それって風邪よ。マダムポンフリーに見て貰いましょう?」

「大した事ないから大丈夫」

 笑顔で首を振るセドリックに ソフィアは今度こそため息をついた。何を隠そう、セドリックは医務室嫌いである。正確には処方される魔法薬嫌いだ。いつも紳士的で押しに弱い優しいセドリックも、医務室に行くとなると中々首を縦に振らないのだ。これは ソフィアたちが2年生の頃に身にしみて知っている。

「ねぇ、セド……早く治さないと、そのやりかけのレポートだって完成度は高まらないし、クィディッチの練習だって辛いでしょう?」

「やめとけよ、 ソフィア。こいつが自力で歩いて医務室行くわけない」 ギリアンが寝室に続く扉から現れて言った。

「本当に大した事ないんだよ」

 セドリックはふぅとため息を吐きながら背もたれに首を預ける。セドリックは恐らく彼の視界に変な顔をした ソフィアが逆さまに写ったのだろう。頬を緩めた。

「 ソフィアも心配してくれて有難う。でも、医務室が嫌とかじゃなくて本当に行くほどじゃないんだよ。見逃してくれる?」

 頼むよと少し掠れた声で微笑みながら言うセドリックの、いつになく気を抜いた姿にソフィアも思わずほおを緩めて「今回だけよ」と呟いた。

「おい、 ソフィア。外でセドリックとそんな風にいちゃついてみろ。お前の神経過敏な恋人が怒り出すぞ」

「いちゃついてないわ、セドリックは友達なんだから」

 ギリアンが呆れたように「いい加減にしとけよ」と言うので、 ソフィアは不思議そうに首を傾げた。最近はフレッドも ソフィアとセドリックの間にあるものは友情だけだと分かってくれているし、別にセドリックと一緒に手を繋いだりした訳でもない。本気で分からないといった様子の ソフィアにギリアンはため息を吐き、セドリックは困ったようにギリアンに向かって微笑んでみせた。


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