immature love | ナノ


▼ 恐怖と勝利7

「そういえば、吸魂鬼に会うたびに気を失うなんて私とハリーくらいよね」

 話を続けていく中で、ソフィアが何気なく言った。脳裏を過るのは、両親の亡骸。ハリーが吸魂鬼に遭遇したら何か記憶がフラッシュバックしているのだとしたら、内容を知りたいなんて言わないが、吸魂鬼が何か経験した恐ろしい経験を引き起こす何かがあるのか知りたかった。

 質問してすぐ、余りにも踏み込んだ質問だったかもしれないと ソフィアは不安に思ったが、ハリーは目を少し見開いただけで、話に乗り気なのか体を前のめりにした。

「 ソフィアはそのー……何か聞こえたりする?」

  ソフィアはハリーが何か映像か音声を呼び起こされていることを察した。 ソフィアの辛い記憶が両親が殺されるものならば、恐らくはハリーもそうなのだろう。誤魔化すことは簡単だったが、ハリーに黙ったままでいるのはフェアでない気がした ソフィアは暫く黙り込んでから静かに言葉を紡いだ。

「ハリー、私のママとパパには会ったことがあるでしょう? 二人とも髪色は明るいのに私が黒髪で変には思わなかった?」

「それは……染めてるんじゃないの? 前にアニーが ソフィアの髪は昔明るかったって言ってたけど」

 ハリーは突然切り替わった話題に戸惑いつつも答えた。まるで魔法薬学の授業でスネイプに嫌味なしにアドバイスされたような顔だ。 ソフィアが何を言いたいのか分かりかねているようではあるが、ハリーは ソフィアの続きを促すように首をかしげる。

「その明るい髪こそ染めてたのよ。私の地毛はこんなに真っ黒。それに、秘密の部屋の事件の時に私が何で石になったかわかる? アスター家は純血なのに。それはね、私は生粋のマグル生まれだから。私の両親はね――私が赤ん坊の頃に死んだの。
 死喰い人に殺されたのよ。吸魂鬼と出会す度に、その場面が見えるわ。ハリー、あなたも?」

  ソフィアの告白にハリーは目を見開いた。何を言えばいいのか分からないといった様子で眉を下げて、恐る恐る頷くハリーに ソフィアは薄く微笑んで続けた。

「ハリーは戸惑ったでしょうけど、私はハリーのことがずっと大好きで、ファンだったのよ。それはね、ハリーが闇の時代を終わらせた生き残った男の子だったから。私の両親の敵討ちをしてくれたからなのよ」

 ハリーの緑色の瞳が今度こそこぼれ落ちそうな程開いた。「僕……あの……」と言葉を紡げないくらいに戸惑ったハリーに ソフィアは眉を下げて微笑みかけた。

「貴方にはとても辛い出来事だったのは分かってる。私も両親を失ったし、貴方は引き取ってくれた家族にも恵まれなかったって知ってるから。酷い言葉だけど、どうしても有難うと伝えたかったの。ごめんなさい」

 ハリーの手を握り、伝える。ずっと心のうちに秘めていた思いを言葉にして紡いでいく。 ソフィア はずっと昔からハリーのファンだったから。彼女にとって、彼は世界を救ったヒーローのような存在だったから。申し訳なさそうにする ソフィアの手をハリーは握り返した。

「どういたしましてとは言えないけど、僕は ソフィアがこの事を話してくれて嬉しいよ。減点されたり後継者だと思われて周りから遠巻きにされた時、 ソフィア が味方でいてくれたことは本当に心強かったんだ。だから、僕からもお礼を言わせて。僕を大好きだって言ってくれて、味方でいてくれて有難う」

 にっこりと笑みを浮かべた ソフィアの英雄は、どこまでも優しい男の子だった。

prev / next

[ back to top ]



第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -