▼ 恐怖と勝利6
ベッドに横になったはいいものの、 ソフィアは到底眠れそうになかった。目を閉じるだけで、あの光景が浮かび上がる。高笑いが、両親の亡骸が、ドウェインの泣き叫ぶ姿が――。 ソフィアにはそれを気にせず眠りにつけるほどの図太さは持ち合わせていない。
右に左に寝返りをうっても眠気は一向に訪れないどころか、益々目は冴えていく。諦めた ソフィアは起き上がり、カーテンを開けるとハリーのベッドのカーテン越しにハリーの影が映っている。彼も上体を起こしていて、眠っているわけではなく起きているらしい。暇つぶしがてらに ソフィアもガウンを引っ掛けスニーカーのかかとを履きつぶして立ち上がる。ベッドに近づくと、影が少し揺れた。
「 ソフィア?」
「そうよ、開けてもいい?」
「もちろん」
カーテンをめくると、膝を抱えてうずくまるハリーがいた。ベッドの端に腰掛けて、ついロンを宥める時のように頭を撫でたがハリーは力なく首を振るだけだった。弱い拒否を示す行動を ソフィアは素直に受け入れ、手を戻した。
「どうしたの?」
ソフィアの問いかけにハリーはのろのろと顔を上げると、足元に置かれたカバンを指差した。促されるまま中を覗いてみると、中には粉々になった木の破片や小枝が入っていた。嫌な予感がして黙りこめば、ハリーは力なくため息を吐いた。
「ニンバス2000、壊れちゃったんだ。なんていうか……最低な気分だ」
もう一度膝に頭を埋めてしまったハリーを撫でても、今度は嫌がらなかった。あちこちに跳ねた髪を梳くように撫で付けながら、 ソフィアは自分が出せる最大限に優しい声音で言った。
「ハリー、クィディッチは箒で決まるものじゃないのよ? 分かってるでしょう? 流れ星に乗ってても、貴方なら勝てるわ」
「分かってる。でも……初めて貰ったプレゼントだったんだ。チームのためにくれた物だって事も勿論分かってるよ。でも……今まで、ダーズリーおじさん達は僕に靴下とかしかくれた事が無かったから。凄く、大切だったんだ」
ハリーの声は次第に曇っていく。 ソフィア はハリーになんて声をかけてやればいいのか分からなかった。無責任に誰かがまたプレゼントしてくれるだろうなんて言えないし、貰ったところで彼の傷は癒えないのではないだろう。
「どうやって励ましてあげればいいのか分からないけど、ハリー……プレゼントって大事なのは贈ってくれた人の気持ちよ。物はどんなに大切にしてもいつか壊れてしまうけれど、送ってくれた人の気持ちは消えないわ。逆に、愛情の代わりに物ばかり貰う子だっているんだから」
ソフィアが必死に励まそうとする気持ちが伝わったのか、ハリーはのろのろと顔を上げてニヤリと笑った。少しぎこちない笑い方だったが、さっきよりは晴れ晴れとしている。
「僕なんて、ここに来る前は愛情どころか物も貰えたことなかったんだよ」
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