▼ 恐怖と勝利4
「ピッチにいた訳でもないのに失神するなんてな」
「ポッターより吸魂鬼と距離が近かったわ。おかしくないわよ!」
「静かに。 ソフィア が起きちゃうよ」
ソフィアの耳に囁き声が聞こえてきた。でも、いまいち何を言っているのか理解できない。いったい自分はどこにいて、どこからやってきたのか、その前は一体何をしていたのか、一切すべてが分からなかった。ただ、全身が芯から冷えていて、まるで石になってしまったみたい。
「こんなに怖い思い、はじめてしたよ……」
力ない、優しい声がした。声に導かれるように、意識がゆっくりと浮上していく。思い出すのは、大雨と凍えるような寒さ、ピッチに押し寄せてきた黒い波……。
ソフィアはパチリと目を覚ました。医務室に横たわっていた。ベッドの周りにはフレッドとジョージ、それからセドリックが頭のてっぺんから足の先まで泥まみれで立っている。レティもマルタもギリアンも、プールからあがったばかりのような姿でそこにいた。
「ソフィア!」目を覚ました ソフィアにフレッドは抱きつかんばかりに腕を上げたが、ジョージが押しとどめた。「大丈夫か? 気分は?」
ソフィアの記憶が突然DVDの早送りのように再生された。嵐……稲妻……クィディッチ……吸魂鬼。そうだ、100を超える吸魂鬼の群れを見て、 ソフィアはまたも気を失ったのだ。
「あ……」
掠れた声だ。 ソフィアは喉がまるで乾いて張り付いてしまったように感じた。目線から察したのか、セドリックが近くのテーブルに置かれた水差しからコップに水を入れ渡してくれる。ゆっくり起き上がり――フレッドが甲斐甲斐しく起こすのを手伝ってくれようとしたが、びしょ濡れな上に泥だらけだったので遠慮した――水を一口飲んだ。
「試合は……試合は、どうなったの?」
フレッドとジョージが不貞腐れたように口を引き結んだ。セドリックが気遣わしげに二人を見たのち、少し申し訳なさげな控えめな微笑みを浮かべて言った。
「ディメンターが現れて、君だけじゃなくてポッターも気を失って箒から落ちたんだ。僕はスニッチを取るまでとてもじゃないけど気がつくほど余裕がなかったんだ。やり直しを要求したけど、受け入れてもらえなかった。……僕らの勝ちだよ」
「あなたはフェアに戦って勝ったのよ、凄いわ」
試合に勝ったというのに申し訳なさそうなセドリックの手を ソフィアは思わず握った。弱々しいが手に力を込めて、笑顔を浮かべる。
「クィディッチ優勝杯に名前を刻みましょ、キャプテン。私のボーイフレンドには申し訳ないけどね」
ソフィアが一度フレッドを見てにやりと笑い、ウィンクすればフレッドは態とらしいくらいにほほを膨らませてぶすくれた。
「君の恋人は、無口のっぽじゃなくて僕だろ? 応援する相手を間違ってるよ」
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