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▼ 恐怖と勝利3

 細身で、王冠のようなもじゃもじゃの白髪、高く尖った鼻と細い目はその男が声高く嗤い声をあげていた。トラバースだ。 ソフィア はかつてこの男をDADAの授業で見たことがあった。

 トラバースの足元には、 ソフィア には親しみ深い人たちが最悪の形で横たわっていた。目を見開いたまま固まる父と母が、恐怖を表情に張り付かせたまま横たわっている。 ソフィアの実の両親はトラバースに顔を踏まれても微動だにしない。……死んでいた。

「我が君の誘いを断るからだ、当然の報いだ!」

「穢れた血ごときが、あのお方の誘いを断るなぞ!」

「我が君を愚弄しおって!」

 ヒステリックな叫びだった。 ソフィアは恐怖を隠しきれなかった。はじめて狂気というものに直に触れたのだから当たり前だろう。トラバースの近くに控えていた骸骨を模した仮面をつけた男が杖を高く上げると、宙に文字が描かれた。エメラルド色の不気味な彩色を放つ髑髏の口から蛇が這い出している。いつか、どこかの本で見た闇の印そのものだ。

 その悍ましさに ソフィアが魅せられたように呆然としていると、パチンと姿現しの音が聞こえた。「臆病者が味方をつけて帰ってきたか」とトラバースが鼻で笑った。ドウェインは怒りの咆哮を上げながら、杖を構えトラバースに呪文を放つ。

 ドウェインとともに現れた多くの魔法使いはルーピン、マッド≒アイ、他にも複数名いて、皆それぞれ死喰い人と戦っていた。ルーピンがいたことに ソフィアは驚くとともに納得した。だから彼はトラバースを知っていたのか、と。

「貴様ァ!」

 ドウェインは見たこともない怒りの形相を浮かべ、叫んだ。その姿を見てトラバースは笑う。激しい攻防だったが、ドウェインが冷静さを欠いている分劣勢だった。トラバースの呪文がドウェインの片目を直撃し、ドウェインは蹌踉めく。 ソフィアが悲鳴をあげる暇もなく、トラバースが追い討ちをかけようとしたところを一人の青年が颯爽と前に躍り出た。

 長めの黒髪がちょこんと束ねられている。表情を怒りに歪ませてはいたが、非常に整った顔立ちだった。青年は踊るように優雅に、それでいて凶暴性を含ませた動きでトラバースを追い詰めて行く。トラバースはその時になってやっと周囲を見渡し、劣勢と判断したらしい。撤退するぞと叫ぶや否や、あちこちで姿くらましの音が響き渡った。

 ドウェインが痛みに呻きながら、這って ソフィアの両親の元へ行こうとするのを青年は止め、肩を貸した。ゆっくりとした足取りでアルバータとマーリンの元へたどり着くと、ドウェインはすがりつくように伏し、赤子のように泣きじゃくった。 ソフィアが初めて見る父の泣く姿だった。ゆっくりと、景色が靄がかっていく。意識が遠ざかるのを感じながら、 ソフィアは懸命に涙を堪えようとした。

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