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▼ 恐怖と勝利2

 雨は予想の数十倍酷かった。斜めに降る横殴りの雨にびゅうびゅうと吹き付けてくる風。 ソフィアは身を低くして傘を盾のように構えて草原を駆けたが、傘はすぐに吹き飛ばされてしまった。顔にビシバシと打ち付けるように当たる雨は最早痛みを錯覚しそうだった。せめてもの救いはローブに防水呪文をかけておいたことだろう。

 観客席には屋根なんてものはない――空が競技の舞台だからあったらあったで邪魔なのだが――こんな嵐のような雨の日には最悪だった。雨が顔を打ち付けるので目を開けるのがやっとだ。 ソフィアは目を凝らしてピッチを見つめたが、カナリア・イエローのユニフォームに身を包んだ集団の内どれがセドリックかわかりそうになかった。フレッドもまた同様だ。

 選手が並び、マダム・フーチのホイッスルの音がどこか遠くに聞こえた。微かに聞き取れた程度だったので、本当かどうか定かではなかったが、選手たちが一斉に地面を蹴って宙へと舞い上がったので間違いではなかったようだ。

  ソフィアは雪だるまかてるてる坊主のように頭からすっぽりローブを被って宙を見つめたが、何か物体が動いてるようにしか見えず、試合の状況なんてまるでわからなかった。雷鳴がまるですぐ近くに落ちたように轟音を立てるので、そのたびに身を竦めながら、 ソフィアはセドリックが早くスニッチを捕まえられるように祈った。やる方は勿論辛いだろうが、観てる方も体力の限界だ。

「見ろ、 ソフィア! スニッチを見つけたみたいだ!」

 隣の席に座っていたギリアンが叫ぶように言った。

「行け! セドリック!」

 マルタがローブをかなぐり捨てて叫んだ。

 一つ、カナリアイエローの影が急上昇していく後を紅が猛スピードで追い上げて行く。おそらくハリーだろう。ニンバス2000にはスピードで負けてしまうのは目に見えている。間に合ってくれと ソフィアは堪らず両手を祈るように組んだ。

 その時、奇妙なことが起こった。競技場からサァーと熱気が引いて、静けさが襲った。誰も喋らない。でも、少し変だ。先ほどまで唸るように聞こえていた雨や風の音も、雷鳴も、何も聞こえない。全ての音がシャットアウトされた。

 見渡せば、ピッチに軽く100を超える吸魂鬼が立っていた。見えない顔はどこかを見つめているようだった。心臓まで凍らされてしまったような――あの時、あの汽車で遭遇した感覚が冷たい波となって ソフィアを襲った。体が引き裂かれるような感覚だった。そして、どこか遠くから声が聞こえた。嗤う声だ、次第に大きくなってくる……。

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