immature love | ナノ


▼ 大きな黒犬4

  ソフィアとセドリックが一緒に帰る道中話は大いに盛り上がった。議題はあの黒い犬の名前を何とするかだ。 ソフィアが黒いのだから「ブラック」にしようと発案すると、セドリックが不謹慎だと首を振った。

「 ソフィア 、ついこの間シリウス・ブラックが城に侵入したんだよ? 犬をブラックって呼んでるのを当の本人が見たら……」

 セドリックがぶるりと背筋を震わせた。確かに、純血の王様、ブラック家の名前を借りて犬につけるのは得策ではないかもしれない。 ソフィアはうんうんと唸った。いい名前が一向に思い浮かばない。

「セドリックこそ何かいいアイデアはないの?」

「オツォはどうだい?」

「オツォ?」

 聞きなれない言葉に ソフィアが首をかしげると、セドリックがにっこりと笑った。

「スペイン語で、狼っていう意味だよ。マルタが教えてくれたんだ」

「それ良いわね! あの子、狼みたいに大きいもの」

  オツォと口の中でその名前を転がして見た。聞きなれなかった発音とは別で、口の中でよく馴染むその名前に ソフィアはにっこりと笑う。少しばかりはしゃいだ様子で「オツォ」と何度も言う ソフィアにセドリックは恥ずかしそうにはにかんだ。ペットに外国語で名前をつけるなんて、少しばかり気恥ずかしい。だが、同時により素晴らしいものに思えて二人は顔を見合わせて笑いあった。

 玄関ホールが見えてきたところで、 ソフィアは顔を綻ばせた。入り口の方にフレッドが一人で立っているではないか。なぜ朝食に行かないとか疑問は残ったが、 ソフィアは「フレッド!」と大声をあげて手を振った。

 フレッドは ソフィアの挨拶に軽く片手を上げる。顔は不機嫌そうで、気難しそうに眉間にしわを寄せている。その様子に首を傾げた ソフィアだったが、セドリックが「また授業で」と言い残して大広間の方へ ソフィアを置いていってしまったので、渋々フレッドの隣へ行った。

 フレッドはどうやら ソフィアを待っていてくれたらしい。いまだ無言ではあったが ソフィアがフレッドの隣に来ると踵を返して数歩進み、 ソフィアの様子を伺うためか振り返った。慌ててフレッドについていく。

「どうしたのよ、フレッド。何かあったの?」

「 別に何でもないさ」

 この機嫌の悪さは最近よく見かけるものだ。それも、セドリックがらみの時に。 ソフィアも負けじと不機嫌そうに目を細めた、最近のフレッドのいじけやすさに辟易している。自分が好きなのはフレッドだ、だから彼と付き合っているというのに、なんでこうも心が狭いんだろうか? フレッドこそ、アンジェリーナやケイティあたりの可愛いグリフィンドールの女子生徒とよく話しているくせに!

ソフィアの不機嫌そうな表情にフレッドがしかめていた眉を戻した。隣の席で無言でオレンジジュースを飲む恋人にフレッドはため息をついた。

「悪かったよ、すぐ嫉妬して。かっこ悪いよな」

 フレッドが声を潜めて、申し訳なさそうにに言うと、 ソフィアは不機嫌だった表情をたちまち笑顔に変えた。そのままフレッドの耳にキスをする。

「私が好きなのはフレッド、あなたなのよ。どーんと構えててよ。私だって、あなたとアンジェリーナのことで嫉妬したこと一度もないでしょう?」

「そんなこと気にしてるのか? 俺らはただの友達だよ」

「私が言いたいのは、それと同じってことよ」

  ソフィアが少し口元を緩ませてフレッドの高い鼻をつまめば、フレッドは堪らずといった様子で破顔した。困ったなと眉を下げるフレッドににっこり笑う。ゆっくりと、朝食の時間は確かな幸せを刻みながら過ぎて行った。



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