immature love | ナノ


▼ 大きな黒犬2

 11月の朝は冷え込む。その上、秋は天気が崩れやすい。 ソフィアは防水機能付きのウィンドブレーカーのジッパーを1番上まであげた。これを着て正解だった、霧雨だ。セドリックも隣でダウンのフードを被った。

 一緒に城を出て、芝生の山を下って行く。森の奥から何か獣の遠吠えのようなものが聞こえた。魔法生物飼育学を取っていない ソフィアは、この禁じられた森に近づくのは3年生の時以来だった。なんだかんだと、毎年行く機会を失っている。もしかしたら、今日フィレンツェに会うこともできるかもしれないと ソフィアは少し鼓動が早まるのを感じた。

「僕らの授業の時は平気だったけど、危ないかもしれないから余り近寄っちゃ駄目だよ」

 ハグリットの小屋の近く、かぼちゃ畑にある柵にその生き物は繋がれていた。セドリックの瞳の色より濃い、黒に近いグレーだ。鉛筆の炭の色、さっきセドリックの絵で見たヒッポグリフが飛び出してきたようだった。

「綺麗だわ」

 思わずといった感じで ソフィアの口から言葉が漏れた。まだ明け方だから眠ってはいるが、 ソフィアたちの気配を感じてか目を覚まし立ち上がったヒッポグリフは気高く美しかった。ただ、セドリックの絵で見たヒッポグリフより実物の方が数倍凶暴そうだ。前足の鉤爪が神経質に土を掘っている。

「見てて」

 セドリックが ソフィアの数歩前を行く。立ち止まり、ヒッポグリフを見据えたままお辞儀した。その体勢のままセドリックが止まると、ヒッポグリフが何やら考え込むようにセドリックをじっと見つめ、そして同様にお辞儀を返した。

「ヒッポグリフがお辞儀を仕返してくれたら、近寄っても大丈夫だ」

 セドリックを真似て ソフィアもお辞儀をする。地面を見つめている時間が、1秒が1分にも感じられる。とても長い時間だった。セドリックが顔を上げてと小声で囁く。そっと伺えば、ヒッポグリフが綺麗に前足を折り ソフィアにお辞儀していた。

 近寄って、恐る恐る首に手を伸ばす。ヒッポグリフは抵抗しなかった。触り心地はとても滑らかで、ガニメド を撫でているのとはまた違った感触だった。

「名前はなんて言うの?」

「バック・ビークだよ」

「バック・ビーク」

 口の中で転がせば、その名前はしっくりと型にはまるように ソフィアの口から飛び出た。この子の名前にぴったりだと思う。その時、猫の鳴き声がした。あたりを見渡せば、森の入り口近くに猫がいる。デッキブラシのような尻尾とがに股歩き、それにあの潰れた顔はハーマイオニーの猫クルックシャンクスだろう。だが、 ソフィアの注目を奪ったのはクルックシャンクスではない。猫と一緒に歩いている大きな黒い犬だった。


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