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▼ 大きな黒犬1

 城中がもはやシリウス・ブラックの話で持ちきりだった。監督生の見回りも、最早、先生も一緒に行うような厳戒態勢で、頻繁に行わなくてはいけない見回りにソフィアもセドリックも疲弊していた。

 セドリックはそれに加えて履修科目も多ければ、クィディッチの練習もある。セドリックは弱音を吐くどころか、自分から宿題を写させてなんて言おうとはしなかった。 ソフィアたちは積極的に参考になる本を貸したりとセドリックの宿題を手伝った。

 ある朝、珍しく早朝に目が覚めた ソフィアが談話室に行くと、小さく火がくすぶる暖炉の前で何かを熱心に描いているセドリックがいた。こっそり邪魔をしないように ソフィアはセドリックの背後に回った。邪魔したくないと言うのもあったが、こんなに熱心で楽しそうな様子のセドリックはクィディッチ以外であまり見ない。

 背後から覗き込んだ時、さすがにセドリックも気づいたようで驚きで肩を跳ねさせていたが、後ろにいるのが ソフィアだと分かると笑って肩の力を抜いた。 ソフィアはそれよりもセドリックの手の中にあるものに目を奪われた。

「それ、魔法生物?」

「うん、授業は今年から先生がハグリットになったから、模写の必要はなかったんだけどね……動物の絵を描くのは楽しくて好きだから」

 黒の鉛筆1色で描かれたそれは、とても美しくてもし魔法がかかっていたら今にも動き出しかねないとさえ ソフィアは思った。胴体、後ろ足、尻尾は馬で、前足と羽、そして頭部は巨大な鳥のように見える。ギラギラとした瞳に、艶のある鋭い嘴、前足の鉤爪は恐ろしく尖っている。見るからに武器の一つだ。そして、その羽の艶やかさに心が奪われた。羽から毛に変わって行く様が滑らかだ。

「これ、なんていう動物なの?」

「ヒッポグリフだよ」

 セドリックは満足げに絵を見て、中々上手く描けただろう?と少し得意げに笑った。

「中々どころか最高よ! ねぇ、セドリック、私このヒッポグリフが見てみたいわ」

  ソフィアの言葉にセドリックは顔色を悪くした。

「それが、このヒッポグリフ――バックビークは処分されるんだ。会うのは難しいんじゃないかな」

 セドリックの説明では、どうやらヒッポグリフは誇り高い生き物で、侮辱したマルフォイが鉤爪で攻撃され酷い怪我を負ったらしい。どこにも同情の余地がない、自業自得な結末だった。きっとダンブルドアだってそのままにしないはずだ。

「でも、この明け方なら問題ないんじゃないかしら。1人でも行くわよ」

  ソフィアが少し挑発気味に言うと、セドリックは降参とでも言いたげに両手を上げて肩をすくめた。「まだ寒いよ、コートを持って集合しよう」セドリックの言葉に ソフィアはガッツポーズして立ち上がる。この美しい生き物に、一目でいいから会って見たかった。


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