immature love | ナノ


▼ ハロウィーンの夜5

「大丈夫?」

 見張りも交代し、壁際で何をするわけでもなく突っ立っていた ソフィアの方へとセドリックが歩いて来た。笑顔を浮かべて、なんでもないと言いたげに手を振る。セドリックは曖昧な笑みを浮かべて ソフィアの隣に立った。

「無理しなくていいよ。次の見張りまで寝たら?」

「本当に、セドは私を甘やかすわね」

「そんなつもりは無いんだけどな……」

 そうかな? と首を傾げて笑うセドリックが赤くなっているのかは暗い大広間の中では分からなかった。そうよと頷き返しながら、壁を背にずるずると座り込む。セドリックも隣に同じように座った。

 天井を見上げるセドリックの灰色の瞳に、天井の星空が映り込んでいた。まるで、セドリックの瞳の中に星が瞬いているように見えて、その美しさに ソフィアは一瞬言葉を失った。気がついたら、瞳から星は消えて代わりに呆然とした表情の ソフィアが映っていた。

「 ソフィアは、将来何になりたいの?」

「分からないわ……そうね、闇祓いになりたいって小さい頃は思っていたの。でも、今はもっと何か違う方法で世界に貢献したいって思うの」

 ――例えば、私の予知夢で。

  ソフィアは最後の言葉は心の中で飲み込んで、にっこりと笑った。セドリックは少し驚いたようだったが、良い夢だねと微笑む。 ソフィアがあなたはどうなの? と質問すると、少し困ったように眉を下げた。

「闇祓いになりたい。でも、父さんは反対してるんだ。上手くいきっこないって思ってるらしい」

「父さんは口で言うほど僕に期待してないみたいだよ」

 珍しく弱気な声でそう零し、下を向くセドリックに ソフィアはそんな事ないわと首を振った。同学年の男子にする事でもないと分かっていながら、小さい子を励ますように頭をくしゃくしゃと撫でる。

「心配してるのよ、貴方が何よりも――きっと命よりも、大事な宝物だから。それに、闇祓いになっても十分やっていける……それだけの実力があるって示してやればいいのよ! きっとおじさんだって馬鹿な心配だったって気づく筈よ」

 にっこりと笑って、敢えて自信満々とも言えるような態度をとればセドリックは少し力が抜けたような顔で笑った。

「有難う、君と友達になれて良かったって心の底から思うよ」

「友達じゃないわ。親友でしょ?」

 お互いに顔を見合わせてくすくすと笑う。「何してるんだ?」という声がかかって ソフィアの肩が跳ねた。慌てて立ち上がる。フレッドがなぜか ソフィアの方へやって来ていた。数歩歩み寄る。

「今、休憩中だったから、話してたところよ」

「じゃあ、その話とやらを続けてくれよ」

「フレッド……貴方は、もう消灯時間なんだから此処にいてはダメよ」

 フレッドは話の内容を知りたそうだったが、セドリックのプライベートな話をフレッドに暴露する気にはとてもなれない。フレッドとセドリックは仲がいいどころか悪い部類なのだから、余計に話せない。ごまかすような ソフィアの言葉にフレッドはぐるりと目を回した。

「はいはい、そうですね。邪魔者は消えるよ」

「フレッド! 待って」

「君が消えろって言ったんだろ」

「そんな風には言ってないわ!」

 小声で言い争う ソフィアとフレッドのもとにセドリックがやってきた。

「僕の愚痴を聞いてもらってただけなんだ、君が嫉妬するようなことは何もないよ」

 セドリックは善意での言動だったが、今のフレッドには火に油だったらししい。セドリックの言葉に眉を上下させたフレッドは分かったよとおざなりに言うと大広間の奥の方へ歩いて行ってしまった。

 幼馴染の時はこんな小さなことで喧嘩なんかしなかったのに、何故恋人同士になるとこうも上手くいかないのだろうか。 ソフィアは言い表せない疲れに肩を落として壁際に戻るとズルズル座り込んだ。今日は、人生で1番最悪のハロウィーンであることは間違いなかった。

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