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▼ まね妖怪6

「リディクラス!」

 フレッドが動揺したのも束の間で、石化した ソフィアは突如ロボットダンスをし始めた。笑いがどっと起きる。石化しているせいで動きがぎこちないし、とても上手いとは言えないダンスだった。 ソフィアは自分が笑い者にされているようで顔から火が出そうだった。

「マルタ、前へ!」

 マルタが珍しく真剣な顔をして顎を引いたまま前へ出た。その瞬間、ロボットダンスをしていた ソフィアは大量のゴキブリへと姿を変えた。女子生徒から悲鳴が起きる。非常にグロテスクな光景だったし、自分がゴキブリになったようで ソフィアにとって二重苦だった。

「リディクラス!」

 パチンと鞭で打ったような音がし、ゴキブリは全部ひっくり返った。とても笑えないが、 マルタだけは面白そうに笑った。本当にゴキブリを恐れる女子の対応がそれだろうかと ソフィアは首を傾げた。

「 ソフィア!」

  ソフィアは恐る恐るゴキブリの方へと進み出た。バジリスクだった場合、 固結びしてしまおうと ソフィアは自分に言い聞かせた。吸魂鬼だったらローブを脱がせる。ヴォルデモートだったらピエロの仮装をさせて踊らせよう……それはちょっと違う意味で怖いかもしれない。

 だが、 ソフィアの予想は全て外れた。ボガードは知らない男に姿を変えた。細身で、王冠のようなもじゃもじゃの白髪、高く尖った鼻と細い目はその男が鋭く残忍な姿に見せた。誰か分からなかったが、その嗤い声は聞き覚えがった。ついこの間聞いたものだ。

「トラバース……」

 ルーピン先生の驚愕したような小さな呟きが聞こえた。初めて、この人がトラバースという男だと知る。自分が名前も知らない人を世界で1番怖いと認識していると言うのだろうか? でも、身体の奥底から溢れ出る震えに ソフィアはまともに杖をあげることもできなかった。次の瞬間グイッと引っ張られる。

  ソフィアの目に映ったのはピエロと、それと対峙する大きな背中だ。柔らかい黒い髪、 ソフィアよりずっと高い身長――セドリックの背中だった。

「リディクラス!」

 ピエロは風船が空気が抜けたようにプシューという音を出してしぼんでいく。違う生徒が前に出て、代わりにセドリックが振り向いて ソフィアの方へと歩み寄った。

「大丈夫?」

 心配そうにセドリックは眉を下げ、近寄ってくる。セドリックの大きな手がそっと ソフィアの顔へ近づき、躊躇うように下された。困ったように曖昧に笑ったセドリックはそのまま ソフィアを通り過ぎていく。入れ替わりのようにフレッドが近くへ駆け寄ってきて ソフィアの肩を抱いて近くへ引き寄せた。フレッドの胸に頭を凭れ、 ソフィアは一定のリズムで刻まれる心音に集中した。

 生きている証拠に奏でられるこの音楽が、 ソフィアにこの上ない安心を与えた。頭が撫でられる心地に甘えながら、 ソフィアは目を瞑る。なぜだか、セドリックの後ろ姿が頭から離れなかった。

 なんで、彼は私の異変にいち早く気づいてくれだんだろうか――。

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