immature love | ナノ


▼ 吸魂鬼3

 汽車が北に進んでいくと、雨が激しく窓を打ち付けるようになった。心なしか肌寒い。 ソフィアはそれを言い訳にフレッドにぴたりとくっつくように横に座り手を繋ぐ。フレッドもまんざらでもないようで、ソフィアと繋いでいる手の親指で ソフィアの手の甲を撫でていた。

 やがて通路と荷物棚にポッとランプが灯った。記者は相変わらずガタゴト揺れ、雨は激しく窓を打つ。激しさはどんどん増しているようにも思えた。汽車が速度を落とし始めたので、 ソフィアはもうすぐ着くかもしれないと窓を覗き込んだ。だが、ホグワーツの窓明りも何も見える気配はない。

 フレッドが腕時計で時間を確認したのち首を振った。まだまだ着きそうにない時間らしい。何故かしらと ソフィアが首を傾げていると、汽車はますます速度を落とし、やがてガクンと車体を揺らして止まった。

 フレッドが様子を見てくると言って立ち上がる。通路に顔を出し様子を伺い「運転士に聞いてくるよ」と ソフィアを振り返って言った。 ソフィアが頷こうとしたところで、一斉に明かりが消え急に真っ暗闇になった。

「いったい何なの?」

  ソフィアは自分の声が思っているよりも震えていることに気がついた。フレッドも察したらしく、「俺が行かなくても誰かいくよな」なんて肩をすくめて ソフィアの隣へ戻ってくる。左手に感じる温かみが頼もしかった。

 窓ガラスの曇りを拭いて外を覗くと、外で何か黒い影が動いているのが見えた。フレッドと繋いでる手を引っ張り、一緒に覗く。その「何か」は乗り込んでくるようだった。思わず握る手に力が入るが、フレッドが「大丈夫だろ」と根拠もなく ソフィアを励ました。

「フレッド、 ソフィア、大丈夫か?」

「何かが乗り込んでくるのが見えた」

 ジョージの声がした。程なくして明かりも見える。ルーモスを使ったらしい。ジョージは陽気な声だったが、それに応えるフレッドの声は真剣味を声に乗せている。「何かって?」というリーの言葉に、フレッドは隣で肩をすくめているのがわかった。

 コンパートメントに彼ら2人を招く。その時、しまったはずの扉がもう一度開く気配がした。ジョージが明かりの灯った杖先を向けると、光に照らし出された人影はマントを着ていた。天井までも届きそうな黒い影だ。顔はすっぽりと頭巾で覆われていて、誰なのかわからない。そもそも、こんなに身長の高い知り合いは ソフィアにいなかった。

  ソフィアは上から下に目を走らせ、たまらずフレッドの右腕にしがみついた。マントから突き出している手が灰白色に冷たく光っている、醜いかさぶたに覆われ、水中で腐敗したような死骸のような手だった。その手もすぐにマントへ隠れたが、 ソフィアは忘れることができそうになかった。

 得体の知れない何かはガラガラと音を立てながら、ゆっくりと息を吸い込んだ。深呼吸にしては余りにも不気味で、次第にぞーっとするような冷気が全員を襲った。まるで息が出来ないような錯覚がする。血が凍ったような、体の芯から冷たくなった錯覚に襲われた。血はめぐり、心臓まで冷気が届く。 ソフィアは意識が何かに引きずり込まれるような気がした。何も見えず、聞こえなくなる。下へ下へと体が引っ張られているようだった。

 すると、突然誰かの悲鳴が聞こえた。次に唸るような声も、嗤う声も聞こえてくる。聞きなれたような――そうだ、ドウェインの声だ――怒りに狂う叫びが聞こえる。暗闇が薄れてきた。ソフィアの目に映ったのは、高笑いする男だった。細身で背が高く、付け鼻のように高い鼻だ。モジャモジャの白髪はまるで王冠のようだった。男が、嗤いながら杖を上に向ける――。

「 ソフィア!」

 誰かに体を強く揺さぶられ、 ソフィアは目を覚ました。フレッドだ。ランプはまた光が点り、ガタゴトと汽車は揺れてホグワーツを目指し走っていた。

 皆が心配そうに ソフィアを覗き込んでいる。 ソフィアは、フレッドの膝を枕にする形で座席に横たわっていた。何があったか聞こうと口を開けた ソフィアの口にいきなり何かが放り込まれる。フレッドの手には蛙チョコレートの包み紙があった。チョコレートが口の中で溶けていくにつれて、驚いたことに手足の先まで暖かさが広がっていく。

「今年は、組み分けの儀式もご馳走もお預けだな」

「え?」

 フレッドの言葉がよく理解できずに ソフィアが間抜けに聞き返すと、真面目そうな顔をしたフレッドが ソフィアの顔を見つめる。

「医務室に行かなきゃ。君、倒れて痙攣してたんだぞ」

 珍しく強いフレッドの言葉に何も言えず、 ソフィアは新学期初日を寮の学友と顔をあわせることもなく医務室に直接送られる羽目になった。医務室でマダム・ポンフリーの勢いに押され ソフィアはそのまま医務室のベッドで過ごすことになった。石になった時散々顔を合わせていたらしくまだムポンフリーは親しんだ様子で声をかけてきたが、残念ながら ソフィアに石でいた時の記憶がないので返答に困る羽目になった。

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