▼ 漏れ鍋2
ソフィアはレティやマルタと顔を見合わせ、急いで人が群がる男の元へ行った。机の上に広げられた日刊予言者新聞には一面記事に大きな写真が飾られている。もつれた長い髪の頬のこけた男が、うつろな目でまばたきしている。
ソフィアたちがまだ幼い頃、13人も大虐殺した事件で有名な男だった。一体どうやって脱獄したというのだろうか。その日のうちにレティには手紙が届き、家に帰らなくてはいけなくなった。
マルタは困っていたようだが、レティの両親からの提案でシャフィク家に今晩は泊まりそれから明日の朝マルタの家まで届けてもらうことになったようだ。
魔法界全体が闇の時代の影が再び世に出たことで怯えを隠していなかった。もちろん ソフィアもシャフィク家へ来るよう誘われたが、姿現しで漏れ鍋まで急いだ様子で来たクレアに漏れ鍋に止まるよう言われた。
「いい? 漏れ鍋はおそらくロンドンで1番警護が厚くなるわ。ダイアゴン横丁もね。約束してちょうだい、マグルの街には出ないこと、夕方には漏れ鍋に戻ること。できる?」
「勿論よ、ママ」
クレアの話を聞いて、レティとマルタも不安そうに漏れ鍋へ残ろうかと提案してくれたが、彼らの両親が心配で死んでしまうだろうと ソフィアは気丈に微笑んで彼らに手を振った。
ソフィアは急に一人になってしまった部屋で大きめのベッドに腰掛けながら無意味に買ったばかりの教科書をパラパラ捲ったりした。何もしない時間はシリウス・ブラックのことを考えてしまいそうだった。
シリウス・ブラックは例のあの人の忠実なしもべだったと ソフィアも両親から聞かされている。裁判を開くべきだったとドウェインは嫌な顔をして話し、クレアが開くまでもなく終身刑であるべきだわと一度軽い口論のような口調で話していたことがあった。
ソフィアは薄暗い部屋でひとりきりというのが堪らなく寂しかった。両親に甘え、一緒にいてと強請りたいと思う反面、闇祓いである両親が今1番忙しいのだからと ソフィアは首を振った。
それにしても、なぜ漏れ鍋なんかが1番警護されるんだろうか?
ソフィアの疑問は翌朝解決された。なにせ、隣の11号室にハリーが越して来ていたのだから。ハリーは休み中魔法を使わないどころかマグルのおばさんを風船のように膨らませてどこかへ飛ばしてしまうという大事件を起こして漏れ鍋へと避難してきたらしい。
去年マグルに大量に目撃されながら空飛ぶ車で登校してきた時といい、ハリーはなぜ誰も思いつかないような目立つ行動ができるんだろうと ソフィアは疑問に思ったが、聞いてみたところでハリーには好きでやってるんじゃ無いよと煙たがられてしまった。
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