immature love | ナノ


▼ 夏休み3

 カタリと窓枠から音がして、ソフィアは勢いよく振り向いた。梟がとまっている。

 フレッドからの手紙かもしれないと、ソフィアは勇足で窓際へ急いだが、すぐに風船のように気持ちは萎んでいった。

 もう受け取るのも五回目となるホグワーツからの新学期の連絡だ。

 ソフィアが若干うんざりとした気持ちで手紙を受け取った。いつもより封筒が分厚いと思いながら、封を切り、羊皮紙を取り出して読んだ。

 必要な教科書リスト以外にびっくりすることが書かれていた。なんと、ソフィアは監督生に選ばれた。パーシーが寝る時もどんな時も身につけていたPバッジが、まさか手元に届いた事実にソフィアは驚きを隠せなかった。

 監督生は五年生になると各寮から男女二名ずつ選ばれる。ハッフルパフの監督生のもう一人が誰か、考えなくてもすぐに分かった。セドリックに違いない。

 ソフィアは羽ペンと適当な便箋を取った。書いているうちに色の変わるお気に入りのインクにペン先を浸す。ソフィアは少しの間考え込む用意羽ペンの羽先でくるくると顎を撫で、鼻歌を歌って便箋にインクを落とした。


 セドリックへ

 驚くべき手紙がホグワーツから来たわ。
 なんと、教科書のリストと一緒に監督生のバッジが同封されていたの。
 バッジが私に似合うとはとても思えないわ。
 だって、このPバッジが一番似合うのはパーシーだもの。(彼、タンクトップにもバッジを着けてたのよ。信じられる?)

 あなたは今年、クィディッチのキャプテンか監督生のどちらかにはなってると思うんだけど、どうかしら?

 もしなっていないなら、あなたはハッフルパフ・プリンスっていう役割だけで十分忙しいのに加えて時間割も変態じみてるからそれを考慮されたのかもしれないわね。

  ソフィア


 蝋を垂らし、封をする。大きな焦げ茶の精悍な鷲が、勿体ぶった様子で窓枠に止まり、足を差し出して待っていた。

 ソフィアが知ってる猛禽類の中で、ガニメドはもっとも気高く美しかった。三年生のクリスマスに親戚からもらった。手紙を括り付けて、机の上のフクロウフーズを一粒与える。

「セドリックに届けてくれる?」

 柔らかな羽毛をなでれば、ガニメドはぶるりと体を震わせ了解したと言いたげに目を閉じた。

 ガニメドが飛び立ち、小さな影が見えなくなるまで窓から見送ったソフィアは大急ぎで一階へ降りた。

「ママ!」ソフィアは叫びながら一段飛ばしで階段を降りた。「監督生に選ばれたわ!」

「本当に?」

 クレアがキッチンから顔を出した。驚きで目を丸くしているが、口元は綻んでいる。

「凄いわね! 誇らしいわ」

 クレアはソフィアを抱きしめてから、思い出したようにソフィアの頭から爪先までじろじろと見て眉を寄せた。

「まだパジャマじゃない! もうすぐトンクスが来る時間よ」

「今日だったっけ!」

 ソフィアは悲鳴を上げた。ニンファドーラ・トンクスは、闇祓いの魔女だ。同じハッフルパフ出身で、ソフィアが一年生の時に七年生だった。

 とても面倒見がいい人で、卒業してからもソフィアに選択授業のアドバイスを手紙で送ってくれた。(手紙が届いた頃には既に授業が確定してしまっていたので、全く役には立たなかった。)

「暖炉の準備をするから、ソフィアは早く準備なさい」

 クレアが追い立てるので、ソフィアは慌てて二階に戻ってセーターとジーンズを着た。セーターは、ウィーズリーおばさんが以前プレゼントしてくれたもので、ソフィアのイニシャルが編み込まれている特別製だった。

 ソフィアが髪の毛をブラシで急いでとかしていると、レクシーが甘えるように膝に乗ってきた。ソフィアは構ってあげられないお詫びにコオロギを一匹与えてやると、レクシーはすぐに満足したのか一人でにベッドの上に戻った。

「薄情すぎるんじゃないの?」

 ソフィアが声をかけたが、レクシーが返事をすることはなかった。

「ソフィア! 早く降りておいでよ!」

 レクシーが返事をする代わりに、快活な声が一階から聞こえてきた。トンクスだ! ソフィアは目を輝かせると、レクシーを床に下ろして、部屋を飛び出した。

「トンクス!」

 一階には、トンクスがいて、昔から住んでいるかのようにソファで寛いでいた。ショッキングピンクの髪で、つんつんと立っている。

 ホグワーツにいた頃と変わらず派手な見た目だった。ソフィアが跳ぶようにはしゃぐ姿を見て、トンクスは気恥ずかしそうに肩をすくめた。

「そんなに喜んでくれるんだ。光栄だね」

トンクスが言った。

「だから言ったじゃない。早く遊びに来なさいって」

クレアが言った。

「それどころじゃなかったのよ。マッド-アイって厳しいんだから」

トンクスが目をぐるりと回した。

「教育担当がアラスターなんて幸運なことよ。彼は本当に優れた闇祓いだわ」

 クレアは話しながら台所へと歩いていった。やかんを火にかける。ホーローの赤いやかんは、滑らかで光沢感がある見た目で高級感がある。クレアがお気に入りでずっと使っているものだ。

「試験を受ける前に、多分マッド-アイに殺されるけどね」トンクスが小声でぼやいた。


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