immature love | ナノ


▼ 夏休み1

 ソフィア・アスターはお行儀よく椅子に座っていた。見たこともないほど高そうな、淡いピンクベージュのシルク生地のドレスを着ている。

 鎖骨が見えるほど、大胆にV字にカッティングされた胸元には小さな野花のような、可愛らしく繊細な花がいくつもついている。ソフィアは夢中になって自分の服装を観察した。

 スカート部分に何層も重なるチュールは一枚一枚の色が少しずつ異なるのか、見る角度によって色合いが異なっていた。

 まるで水彩画のように、多様な色の重なりがある。数えきれないほどのスワロフスキーが足元にかけてふんだんにスカートに縫い付けられていて、照明の光を反射してキラキラと宝石のように光り輝いていた。

 ソフィアは自分の姿を見下ろして、うっとりとため息をついた。こんなにも美しいドレスは見たことがない。

 様子がおかしいのは、なにもソフィアの服装だけではない。ソフィアがいる場所は、通い慣れたホグワーツの大広間のはずだが、大広間はいつもとまるで違う姿をしていた。

 キラキラと銀色に輝く霜で覆われ、星の瞬く黒い天井の下には、何百というヤドリギや蔦の花綱が絡んでいる。

 いつも鎮座している大きな各寮のテーブルは綺麗さっぱり消えて無くなり、代わりに大きなステージがある。ステージには、あの有名な妖女シスターズがいた。

 ソフィアは以前彼らのコンサートのチケットの抽選を外れたこともある。こんなに大人気なアーティストがホグワーツに来ているだなんて、ソフィアは驚きで目を丸くした。

 雑誌で見た時よりも全員毛深かった。彼らが着ている黒いローブは、芸術的に破いたり、引き裂いたりしてあって、一歩間違えれば屋敷しもべ妖精のファッションと似ている。

 それぞれが楽器を取り上げた。妖女シスターズはいつもの激しい曲では無く、スローなバラード曲を演奏し始め、テーブルのランタンが一斉に消えた。

「ソフィア、行こう」

  セドリックの声がして、ソフィアは驚いて隣を見た。そこには、髪をワックスで上げ、いつもと様子が全く違うセドリックがいた。

 いつもある前髪がないため、彼の透けるような灰色の瞳や端正な顔立ちが目立つ。髪型のせいか、着ている黒のドレスローブのせいか、ソフィアの知っているセドリックよりも大人っぽく見えた。

 セドリックは手を差し出したまま、 ソフィアが手を重ねてこないことに不思議そうな表情を浮かべた。思わず周りを見渡せば――最悪なことに――フレッドはアンジェリーナと一緒に立っていた。

 ここで漸く、ソフィアは今夢を見ていることに気が付いた。だって、あり得ないことが起きている。プロムにフレッドが他の女子と来ている。その上、自分は親友のセドリックとペアを組んでるだなんて!

 夢だと気付いても、ソフィアは自分の体を思うように操ることができなかった。ソフィアがセドリックの手を取ると、そのまましっかりと握り締められ、煌々と光るダンスフロアへ導かれた。

 フロアを囲む大勢の生徒がいる。これまでソフィアがこんなに注目を浴びたことはない。夢にも関わらず、ソフィアは緊張で逃げ出したい気持ちに襲われた。

 セドリックのもう片方の手がソフィアの腰をしっかりと掴み抱き寄せ、スローテンポでステップを踏む。ソフィアは人生でダンスなんてしたことなかったが、なんとか危なげなくステップを踏めた。

「ソフィアと来られて良かった」

 自分を見下ろすセドリックが余りにも優しい表情で言うのだから、 ソフィアはなんて返せばいいのか分からなかった。

 これでは、ソフィアの恋人はフレッドでは無くセドリックのようではないか。ソフィアが返事をする前に、タイミング良く曲は終わった。

 続いて早めのテンポの曲が流れ始めると、セドリックはソフィアの手を取って笑いながら躍った。何度もくるくると回りながら、遠目に、フレッドとアンジェリーナが元気を余らせたような激しい踊りをしている姿が見えた。

 周りに遠巻きにされているのが見える。そこへ行って今すぐフレッドを連れ出したいのに、 ソフィアの足は思うように動かなかった――。

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