immature love | ナノ


▼ 再戦1

 日曜日の朝、休日とは思えないほど早い時間にソフィアは目を覚ました。布団から顔を出したが、朝特有の冷え切った空気にすぐに布団の中に逆戻りした。微睡に身を委ね、再び眠りの海へと落ちそうになった時ソフィアの意識は覚醒した。今日は、待ちわびたグリフィンドール対ハッフルパフの試合だった。ソフィアは腹筋に力を入れて勢いよく飛び起きた。締め切っていたベッドのカーテンを開け放ち、叫んだ。

「起きて! 今日はクィディッチの試合よ!」

 ソフィアの叫びにも、レティとマルタのカーテンはちらりとも揺れない。ソフィアはベッドから飛び出し、二人のカーテンも開けた。

「今何時だと思ってるのよ……」レティが布団の中から呻いた。

 窓からは、そよ風で草花が揺れている。揺れるたびに、太陽の光に反射して朝露がキラキラと輝いていた。四月の穏やかな天気が、ソフィアの気分を上げた。ソフィアは、昨晩用意しておいた着替え一揃いに着替えると、漸く覚醒し始めたレティとマルタを置いて、寝室を出た。

 談話室にはクィディッチの選手が既に何人かいて、その中にはセドリックの姿もあった。セドリックも機嫌が良さそうに、ツィガー九〇を磨いていた。クリスマスに送った箒磨きセットが使われていることに気付き、ソフィアの顔が花が咲くように綻んだ。

「おはよう!」

「おはよう」

 セドリックは箒磨きしていた手を止めて、ソフィアを見て微笑んだ。目を輝かせて見つめてくるソフィアに、セドリックは首を傾げていたが、すぐに納得したように手元の道具を掲げてみせた。

「お陰様で、手入れが捗るよ。ありがとう」

「ふふふ、どういたしまして」

 ソフィアは態とらしく、勿体ぶってお礼を言った。

 朝食を食べに大広間へ行くと、グリフィンドールとハッフルパフの生徒が多くいた。ハッフルパフの生徒がセドリックを励まし、次々と彼の皿にスクランブルエッグやらトーストやら放り込んだ。

「気合いが食事量に出てるわね」ソフィアは揶揄うように言った。

「こんなに食べたら動けなくなるよ」

 セドリックが困ったように笑った。セドリックの視線は山積みになった食事に固定され、口元が引き攣っている。

「おはよ」

 タイミングよくギリアンが現れた。セドリックは、ギリアンが反応する隙を与えず、ギリアンの皿に食事を半分ほど放り込んだ。ギリアンは、セドリックが親切心から料理をよそってくれたと思ったらしい。

「お、おお……サンキュ」ギリアンが戸惑いながらお礼を言った。

「どういたしまして」セドリックが肩をすくめた。

 二人のやり取りを見て込み上げてきた笑いを抑えるために、ソフィアはトーストに齧り付いた。グリフィンドールのテーブルにフレッドとジョージが来るのが見えた。二人は、ソフィアと目が合うと手を振ってウインクした。キザな様子に、ソフィアは今度こそ吹き出した。

 朝食を食べ終え、ギリアンやセドリックとピッチに向かった。外はキラキラと太陽が輝いていて、爽やかなその風が吹いていた。

「絶好のクィディッチ日和ね」ソフィアが言った。「絶対勝ってよね!」

「勝つよ。二才も下の子に負けっぱなしは嫌だからね」セドリックがツィガー九〇を握りしめて言った。

「ハリーはただの二個下の子とは別よ」ソフィアが首を塗った。

「黙れよポッターファンめ」ギリアンがソフィアの肩を小突いた。

 セドリックのズボンの裾からちらりとスニッチが点滅する靴下が見え、ソフィアは立ち止まった。ソフィアの靴下をは寝室の中で眠っている。スニッチの代わりに、金と銀の星が点滅する靴下だ。セドリックとお揃いということもあって、普段履いてなかったが、今日こそ相応しい日は他にない。いますぐ取りに戻れば、まだレティとマルタも部屋にいるだろう。ソフィアが立ち止まると、ギリアンとセドリックは不思議そうに振り向いた。

「ごめんなさい。私、忘れ物しちゃったわ」ソフィアが言った。

「おい、嘘だろ。良い席全部取られちまうよ」ギリアンが素っ頓狂な声をあげた。

「ギリアンは先に行って私の分も席とっといてくれる?」ソフィアは両手を合わせて頼んだ。

「仕方ないな」ギリアンが肩をすくめる。

「セド、頑張ってね!」

 ソフィアがセドリックにハイタッチすると、セドリックは嬉しそうにはにかんだ。

「でも、君一人で大丈夫かな?」セドリックが心配そうに言った。

「クリスマス休暇以来何も起きてないし、此処から寮に戻るだけなんだから、大丈夫よ」ソフィアは朗らかに笑った。「それに、私はアスターだし」

 アスター家は純血として知られているので、アスターの実子として認識されていることはソフィアの心に安心をもたらした。見るだけで血を判別できる魔法でもない限り、ソフィアがマグル生まれとバレる恐れはないので、継承者の敵と襲われる心配もない。

「そうだね」セドリックが安心したように頷いた。

 ソフィアは二人を背にして、回れ右して走り出した。開始時間までまだ余裕はあるが、急ぐに越したことはない。

prev / next

[ back to top ]



第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -