immature love | ナノ


▼ バレンタイン3

 二月十四日の朝、 ソフィアは眠さにまぶたをこすりながら大広間へ行った。ソフィアは入った瞬間「まだ夢の中かしら?」と思い、頬を抓った。

「どうなってるんだ?」

 ソフィアの後ろから入ってきたセドリックも愕然とし、困惑を隠しきれずにソフィアに聞いた。

「それはこっちのセリフよ」

 ソフィアは答えるでもなく首を振った。

 壁一面がケバケバしい目に痛い大きなピンク色の花で覆われている。おまけに、青空の天井は雪や雨の代わりにハート型の紙吹雪が舞っていた。あたりを見回すと、グリフィンドールの席で珍しくフレッドが今食べたシリアルを吐き出しそうですと言う顔で座っている。ジョージは机に突っ伏していた。対して、女子生徒の大半はくすくす笑ったりヒソヒソ話に勤しみ、楽しそうだ。

 ハートの紙吹雪を頭に乗せている珍しく間抜けな姿のセドリックを見て、ソフィアは固まっていた思考を叱咤した。

「紙吹雪がついているわよ」

 ソフィアの指摘に、セドリックは頭上に乗ったピンクの紙吹雪をとった。丁寧にハート型になっているそれを見て、セドリックはげんなりした表情をした。

 使い物にならないセドリックを引っ張りハッフルパフのテーブルに着く。目玉焼きの黄身を割った瞬間に紙吹雪がべっとりと付いて、まともな食事の時間にはならなかった。

 ピンク、ピンク、ピンク――気が狂いそうだ。その時、配達のフクロウが一羽飛び込んで来て、 ソフィアの紙吹雪まみれの目玉焼きの上に降り立った。もう食べれたものではない。ソフィアは皿を押しやった。

 ソフィアの嫌そうな顔は、すぐに吹き飛んだ。また、一輪のバラが配達された。ソフィアの手に触れた瞬間、それは去年のそれと同じメッセージが書かれ、同じ曲が流れるカードへ変わる。ソフィアは、誰かに指摘される前にこっそり鞄にしまい込んだ。

 先生たちがいる上座を見ると、部屋の飾りにマッチした、ケバケバしいピンクのローブを着たロックハートがいた。輝かしい白い歯を見せながら、手を挙げて静粛にと合図している。

 ロックハートの両側に並ぶ先生たちは石のように無表情だ。スネイプなんて、毒薬を盛られたように苦々しい顔だった。

「バレンタインおめでとう!」ロックハートが叫んだ。「いままでのところ四十六人の皆さんが私にカードをくださいました。ありがとう!」

 四十六人も、ロックハートにカードを贈った人がいるのかとソフィアは心底驚いた。ちらりとレティを見ると、レティはロックハートを見て恥ずかしそうにしていた。もしかすると、四十六人のうちの一人はソフィアにとって身近な生徒かもしれない。

「そうです。皆さんをちょっと驚かせようと、私がこのようにさせていただきました。――しかも、これがすべてではありませんよ!」

 ロックハートがポンと手を叩くと、玄関ホールに続くドアから、無愛想な顔をした小人が十二人ぞろぞろと入ってきた。ウィーズリー家の庭にいるような庭小人とは全く様子が違う。それぞれ金色の翼を付けられ、ハープを持たされていた。ソフィアは悲惨な事故現場に遭遇したような気分になった。

「私の愛すべき配達キューピッドです!」

 ロックハートがにっこり笑って言った。自分はなんて気の利くアイデアマンだろうと思っていそうな顔だ。

「今日は学校中を巡回して、皆さんのバレンタイン・カードを配達します。そしてお楽しみはまだまだこれからですよ! 先生方もこのお祝いムードにはまりたいと思っていらっしゃるはずです! さあ、スネイプ先生に「愛の妙薬」の作り方を見せてもらってはどうです! ついでに、フリットウィック先生ですが、「魅惑の呪文」について、私が知っているどの魔法使いよりもよくご存知です。素知らぬ顔して憎いですね!」

 フリットウィック先生はあまりのことに両手で顔を覆った。スネイプは、姿勢こそ崩さなかったが「聞きに来たやつ全員毒薬を手ずから飲ませてやる」と言いたげな顔をしていた。

 ソフィアは慌てて時間割を確認し、今日魔法薬学の授業がないことに心から安堵した。それと、小人ではなくフクロウからの配達で良かったと鞄の中のカードの差出人に感謝した。

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