▼ バレンタイン1
クリスマス休暇も終えてホグワーツへ戻ると、ハーマイオニーまで姿を消していた。マダム・ポンフリーはハーマイオニーがいるベッドのカーテンを締め切り、ハリーとロン以外の立ち入りを禁じた。多くの生徒が、医務室の前を行ったり来たりして、新しい情報を手に入れようとしていた。
毎日夕方になると、医務室へ行くハリーとロンの姿が見えた。この未来を予知することすら出来ず、当然防ぐこともできなかった己の不甲斐なさにソフィアは悲しくなった。
「これ、ハーマイオニーに渡して貰える?」
ソフィアは、ロンに持ってきた花束とマーズ・バー・チョコレートを渡した。石になってしまったハーマイオニーにお見舞いなんて渡しても意味はないかもしれない。それでも、渡しただけでも気休めになった。
「あー……うん、分かったよ」
ロンは何か言おうと迷っている様子だったが、頷いて見舞いの品を抱えた。ハーマイオニーがどのような時に石になったか教えてくれようとしたののかもしれないと、ソフィアは思った。
マルタも、クリスマス休暇明けにさらにマグル出身の被害者が出ているとは思っていなかってらしい。酷く狼狽えて落ち込んでいる様子だった。セドリックたちは、マルタが一人にならないよう細心の注意を払った。
「私も石になっちゃうのかなあ」マルタが落ち込んだように言った。
「大丈夫よ。でも一人で行動しない方がいいわ」レティが励ますように言った。
ホグワーツの生徒は、襲われても石なるだけだと思っている。(勿論、それだけでも十分に恐ろしい事件だ。)しかし、ソフィアの両親が言うには、五十年前にも部屋は開かれ、その時には死者まで出ている。
ソフィアは、クレアから聞いた事件の話を四人に打ち明けることにした。マルタがより怯えてしまうだろうが、知っていた方が良いに決まっている。ソフィアの話に、四人は真剣に耳を傾けた。
「五十年前かあ、相当昔だね」セドリックが言った。
「彼女も未練があって留まってるって言い方も気になるわね。死んだんでしょう?」レティが首を傾げた。
「未練があって留まる……ゴーストになったのかもしれないね」セドリックが目を伏せた。
「おい、息抜きしようぜ」落ち込んだ様子のマルタをちらりと見て、ギリアンが言った。
「息抜き?」
「ああ、決闘の練習さ」
ギリアンが悪戯っぽく笑った。レティとセドリックは行かないと首を振った。ソフィアとマルタは乗り気で、ギリアンについていき三人でこっそりと決闘の練習を始めた。
三人は交代交代で、エクスペリアームスを練習した。ソフィアは、マルタに何度も吹っ飛ばされて、ふかふかのクッションの中に落下する羽目になった。
「なんで、無言呪文うまく出来ねえんだろ」
ギリアンが拗ねたように言った。セドリックが無言呪文をマスターしつつあるという話を聞いて、ギリアンは密かに闘志を燃やしているらしかった。
廊下を三人で歩きながら、寮に戻る。ギリアンは何かを復習するように杖先を振っていた。
ガラガラガッシャーン、金属がぶつかり合うすさまじい音が突然響き、鎧が一体砕けた。
「あ」ギリアンがやってしまったと言いたげに呟いた。
「ちょっと! 見つかったら罰則ものよ!」ソフィアが叫んだ。
「証拠隠滅して逃げよ! よおし、任せて」マルタが腕まくりした。「レパロ」
鎧が修復された。その時、ぜぃぜぃと荒い息が聞こえてきた。三人一斉に振り返ると、目をギラギラさせたフィルチがいた。
「お前たち、魔法を使ったな」
悲劇的だった。フィルチは嬉々として先生に報告し、ハッフルパフから五点減点されただけではなく、処罰としてトロフィールームで「魔法無しで」銀磨きするよう命じられた。
「最悪だわ」ソフィアが銀磨きをしながら呻いた。
「たまにはトロフィー整理した方がいいぜ。銀杯、百以上あるぞ」ギリアンが呻いた。「巻き込んでごめん」
「三人でよかったよ、この時期に一人で罰則だったら不安だもん」マルタが少し微笑んだ。「それに、励まそうとしてくれたんでしょ? ありがとお」
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