夢見るは花筏



 しとしとと雨の降る4月のある日。
 外遊びはなしになって、みんなは本を読んでいた。ちょうど読みかけだった物語を読み終えた私は伸びをした。表紙に描かれたピンクの花をつける木は、わたしの生涯の中で一度も見たことがない。さっきまで読んでいたラストシーンが印象的で、表紙を撫でながらひとりごちた。

「あーあ、一度でいいからサクラ見たいなあ」
「サクラ? なにそれー、レイ知ってる?」

 正面に座っていたエマが、わたしの隣に座っているレイに尋ねた。普段はこういうことを聞くのはノーマンの役目だけど、ノーマンは本棚の本を取りに行っていてしばらく戻ってこなそうだ。

「サクラ? なんでまた」
「読んでた本に出てきたの!」
「そうかよ。んじゃちょっと待ってろ」

 レイが席を立ったかと思うと、本棚の上の方にある植物図鑑をママに取ってもらって戻ってきた。もう一冊、小さな新書サイズの本も持っている。

「ほら、ここのページにあるやつ」
「おおー!! すごーい! きれいー!」
「これがサクラなんだ!」
「実際に見てみたいなあ」

 ハウスの周りにあるあの木の中の一本でも、このサクラの木になったりしないかな。お花がキレイだから、咲いてたらみんな喜ぶと思うんだけどな。……でも、木をまるっと一本移植するのは大変だろうし、かといって小さい苗からだとわたしが貰われていくまでには間に合わない。うーん、万事休す、って感じ。
 むーっとうなっていたら、いつの間にか近くにいたママが一冊の本を持っていた。折り目のついていないページを強く開いて、わたしの前に置いてくれる。

「本物は難しいけど、折り紙はどう? ここに作り方が乗ってるわよ」
「折り紙かあ、ねえママ、使っていい紙はどこ?」
「ちょっと待っててね、取ってくるから」
「やった! ありがとママ、大好き!」

 ドアの向こうに出ていこうとするママの腕に抱き着いた。ママは「嬉しいけど、また後でね」とわたしの頭を撫でてくれた。



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