5/19 渋川千夏
「もう限界だよぉ……」
「そんなこと言ったって我妻くん副委員長なんだから」
「そうなのか? 俺は初耳だ」
視界の端で揺れる原色が眩しい耳飾り、香ばしいパンの匂い、外見から想像するより高い声。ココアを飲みながら机に頬をつける目の前のだらけきった副委員長よりちゃんとした報告書を書いてくれそうだなぁと思いながら、自分の弁当を食べる。
我妻くんの書いた部分に細い赤ペン――再提出を食らった活動報告書を渡したら目の前で始まる愚痴タイム。逃げようとしたところを竈門くんに止められて、友達と食べようと思っていたお弁当は彼の目の前で食べることとなった。さよなら静かなランチタイム。
「冨岡先生も煉獄先生も話が通じなくってさぁ……煉獄先生のメシはマズいし……」
「えっ、煉獄先生のお料理!? いいなあ……」
「全然!! ぜんっぜんだよほんとに!! 戻れるなら煉獄先生の鮭大根を食べる前に戻りたいくらい!! てかなんで渋川さんの弁当にシャケ入ってるの吐きそう」
「待って人が物を食べてるときに吐きそうとか言わないで」
白米の上に乗った大きなシャケの切り身を崩して食べようとしたところにそんなことを言われてはひとたまりもない。白米だけを口に入れる。やっぱりシャケがあったほうがおいしいし、我妻くんには悪いけど食べさせてもらおう。
「というか善逸は昼ごはんはそれだけか?」
「昨日の今日でまともな飯が食えるお前の口が羨ましいよ」
200mlの紙パックのココアは昼ごはんと言うんだろうか。いやデザートだろう。……まあ、私も友達に薦められて読み始めた小説が思いのほかグロかったときは朝昼まともに食べれなかったことあるけど。そんな感じの延長線上だと思えば、まあ理解できなくもない。液体で飲みやすく、かつカロリーもそれなりにある。確かにいいものだ。
「炭治郎、帰りにアオイさんとこの定食屋行こうよー……あそこの甘味ならなんとか食べれそうだ」
「……まあ、善逸が心配だからな。ついていくよ」
「あ、じゃあ私も行っていい? そこのあんみつ、気になってたんだけどなかなか行く機会がなくってさ」
度々うわさに聞く、定食屋アオイのフルーツ白玉あんみつ。定食屋なんて一人で行ったことがないから、一緒に行ける相手がいるのであれば行きたい。
「じゃあ、放課後に三人で行こう!」
「おー! ……とその前に、今日中に報告書の訂正ね。放課後までかかるようなら手伝うから」
とん、と机をつつくと我妻くんは嫌そうな顔をした。けれどもさっきまでの死にたそうな顔ではなくて、なんだかほっとした。