風紀委員会活動日誌 | ナノ


7/25 渋川千夏

 皆で海に行こう――と、我妻くんと竈門くんと妹さんだけならまだしも、なんで一回も話したことない嘴平くんも一緒に行くことになってるんだろうか。突然竈門くんから『伊之助も行きたいって』なんてメッセージが飛んできて我妻くんがそれにすぐに了承して程なくしてグループに初めて見る名前が追加されて、この友人たちは人の話を聞かないな、と呆れた。本当に。
 ピロンと音を立てて、スマホの上半分にメッセージが表示される。竈門くんからだ。

『これから禰豆子と一緒に水着を買いに行くんだけど、渋川さんも一緒に来てくれないか』

 ……いや、なんで?




「来てくれてありがとう! 助かるよ。俺も禰豆子も水着と言ったら学校指定のくらいしか持ってなくてさ」

 ……まあ、妹の水着を選ぶのも難しい年頃なんだろう。それで同級生を誘うのはいかがなものかと思うけど。しかも誘う先が学校近くのショッピングモール。我妻くん共々、人の話は聞かないし周囲の目は気にしないし、まったくしょうがない人たちだ。

「禰豆子のこと、お願いしてもいいか」
「竈門くんは?」
「俺はあっちの方を一人で見て回るよ」
「じゃあ、買い終わったら連絡するね」
「ああ。よろしく頼む」

 妹さんの手を私に押し付けて、竈門くんはすたこらさっさと女性の水着売り場から逃走した。……これ、妹さんはさておき私が一緒に海に行って平気? いや、今更やっぱ無理って言われても困るんだけど。我妻くんと嘴平くんと三人で海――絶対に無理。本気で。

「むー」
「えっ、もういい感じの見つけたの?」
「む!」
「じゃあ試着室借りようか。店員さんに声かけてくるね」

 店員さんに試着室を借りたい旨を伝えて、使うように言われた試着室の番号を竈門くんの妹さんに教えると、彼女は水着を手に小走りで試着室コーナーへ向かっていく。本人が気に入ったのがこんなに早く見つかるならそれこそ一人で探させるなりなんなりすればいいのに、それをさせないのは兄心といったものなのだろうか。我妻くんがいないとあまり話もしないのに随分と信用されてるなあ、私。
 しばらく時間もかかるだろうし、試着室コーナーから見える商品棚やマネキンを眺める。今年はこういうのが流行りなんだなーなんて思いながら、家にある水着と脳内で比較する。買う必要は……ないでしょ。去年買ったし。
 顔をあげたタイミングでシャッと試着室のカーテンが開く音がした。水着――ではなくて着てきた服に着替えている。

「サイズは大丈夫だった?」

 私の問いにこくりと頷いて、また小走りでレジに向かう。その後ろについていって、会計を終えて女性の水着コーナーから出ていく妹さんの後を追う。竈門くんに妹さんの水着買えたよとメッセージを送った。




「助かったよ。急に呼び出したのに来てくれてありがとう」

 最近オープンしたお店で買ったレモネードを片手に帰り道を歩く。このお店、今度我妻くんに勧めてみよう。

「海でかき氷でも奢ってくれればそれでいいよ」
「ああ。本当にありがとう、渋川さん」
「妹さんすぐ決めてたから、私が来なくてもよかった気がするけど……」
「……むー」

 隣を歩く妹さんがなにか言いたげにこちらを見てくる。レモネードかな? でも口にはいつも通りフランスパンを咥えていて、ひと口ちょうだいってわけではなさそうだけど。妹さんを挟んだその向こうにいる竈門くんが妹さんの顔を覗き込んだ。

「どうしたんだ、禰豆子?」
「むむむーっ」
「そうだな、俺もそう思う。……渋川さん、禰豆子が名前で呼んで欲しいって」
「名前で……禰豆子ちゃん、でいいの?」
「む!」

レモネードを持っていない方の手を妹さん――禰豆子ちゃんに握られた。握手というより手を繋ぐようなかたちだけど、私も彼女の手を握り返す。

「……それで、竈門く――」

 2人の首が勢いよく私の方を向いた。びっくりして禰豆子ちゃんの手を離す。2人とも目力が強いから同時にこっちを見られるとびっくりするなあ……。

「禰豆子と一緒にいるときは俺のことも名前で呼んでくれないか!」
「え、ええと……炭治郎くん?」
「……あ、そしたら俺も渋川さんのこと名前で呼んだ方がいいのか?」
「いやそれは大丈夫間に合ってます!」

 炭治郎くんに禰豆子ちゃん。海に行くときにうっかり竈門くんとか妹さんって呼んじゃったら、ちょっと怖いかも――なんて思いながら、行きよりも会話が弾んだ帰り道を歩いた。

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