7/12 渋川千夏
「渋川さん、おはよう!」
「ん、おはよ」
テスト最終日ぶりの我妻くんは、そのときの朝よりよっぽど元気そうに見えた。まあ、赤点なければ宿題やればいいだけだし、終わったテストの結果は変えられないからカリカリしてるよりいいか。
「テスト勉強がないだけで休日の休めてる感段違いだよね」
「うんうんわかる、課題少しずつやりながら積んでたジャンプ読んだ」
「課題どこまで終わった?」
「昨日一章終わった。渋川さんは?」
「うわめっちゃ早、私まだ章末問題の最後のが残ってる。……はー、あと三回学校行けば夏休みだね」
「そうそう、夏休み……ってそうだ! ねえ渋川さんこの前の返事は!? どう!!?」
……あ。
そういえば、定食屋アオイからの帰り道でもその後のラインでも全く触れられてなかったから、返事をするの忘れてた。
「二人っていうのはちょっとアレだし、竈門くんと一緒に三人とかならいいけど」
「は!? えっもしかして渋川さん炭治郎のこと好きなの!? 俺を出汁にして炭治郎と仲良くなろうって魂胆なの!?」
「ちが、そういうのじゃないよ」
「そういうことに俺を巻き込まないでくれるかなあ!?」
「違うってば! そもそも二人で遊びに行くとか、それこそ今以上にあれやこれや人に言われるからやなんだけど!」
遊びに行くのだってなんだって、高校生は『男女二人で』って聞くとすぐ恋愛ごとに結び付けがちだし。私もそうじゃないとは言い難い。わかってるから言える、そんな感じではある。
我妻くんの性格は過去に同じクラスになった人にはバッチリ知られているんだから、風の噂で聞いた『渋川さん男の趣味悪いね』ってのは、まあ外から見たらそうなるよねっていうか。
「だから別に二人じゃなきゃいいっていうか、だから竈門くんならいいんじゃないかって……」
「そんなこと言って結局炭治郎狙ってるんじゃないの!?」
「だから違うって言ってるじゃん……」
ああもう、朝からめんどくさい!
「……それ以上言ったら休みの間会わないしラインも返さないよ」
「わかりましたもう言いません!! 炭治郎が一緒でもいいです!! だから遊びに行こうよおぉぉ頼むよおぉぉお」
手を掴まれて前後にぶんぶん振られる。な、情けないというか、もういっそ哀れみすら覚える。
「……まあ、変なとこじゃなきゃいいよ。お祭りは多分普段着で行くし、それでいいなら」
「えっ浴衣着ないの!? なんで!? 着てよ!! 見たい!!」
「絶っっ対着ないから。一人じゃ着れないし親は町会の屋台やるから着付けてもらえないし、夕飯買いに行くだけの予定だから」
「ほらなんかこうさ、近所の人に頼むとかしてさあ!!」
「夏の間だけラインブロックするよ」
「はいごめんなさい俺が悪かったです!!」
……まあ、高校生で遊べる最後の夏だし。
我妻くんがうるさいから、仕方なく、付き合ってあげてもいっか。