7/7 我妻善逸
俺は、今年こそ女の子からチョコを貰うぞ!!
去年の不審者騒ぎを少し――ほんの少しだけ反省して、今年こそ長年の無から脱出してみせる!
「……ってわけでさあ、今年は女子に聞いてみようかなって思うんだよ」
「そうか、頑張れ」
「なんでだよ! 炭治郎も一緒に来いよ!! 俺に一人で聞き込みに行けって言うのか!?」
炭治郎の肩を掴んで前後に揺らすと、「わかった、わかったからやめてくれ」と掠れた声をあげた。うんうん、わかってくれるのか、さすが炭治郎。
「女子って言っても、俺もそんなに女の子の知り合い多くないぞ?」
「禰豆子ちゃんにしのぶ先輩、それから渋川さんかな」
「……まあその三人なら、禰豆子のは俺が知っているし」
「バカ野郎! そういうのは俺が聞くから意味あるんだよ!!」
俺の熱弁に、炭治郎の顔がなんとも言えない顔からだんだんと人じゃないものを見る目に変わった。……これは、あれだ。知り合ったばかりの時に女の子の話をしたときの顔だ。
「なんだよその顔ォ!! ……わかったよ、その代わり禰豆子ちゃんのは今ここで俺に教えてくれ!」
「……飛車だ」
「飛車?」
「飛車のような人が好みだと聞いた」
「適当言うなよ炭治郎! こうなったら禰豆子ちゃんに直接……」
「善逸は俺が嘘つくのが苦手だって知ってるだろう」
……確かに。嘘ついたときの炭治郎、誰が見ても分かる顔するし。
てことは、禰豆子ちゃんの好みのタイプは飛車ってこと? 短距離走の練習は去年したし、カニ走りの特訓すればいいのかな。こんなとこで去年の経験が活きるとは思ってなかったけど。
「……あ、二人ともお疲れー。日本史どんなだった?」
地理のテストの面々も徐々に教室に戻ってきている。俺の席の前を通る人の中にいた渋川さんが列から抜け出して駆け寄ってきた。
「渋川さんもお疲れ様。煉獄先生の熱意が紙面から感じられたよ」
「授業でめっちゃ時間とったとこから超長い記述が出た」
「あー、めっちゃ煉獄先生じゃんそれ。テストも終わっていよいよ夏休みだよね! 楽しみー」
あついねー、と言いながら地理の問題用紙でぱたぱたと顔を扇ぐ渋川さんの前髪が風に揺れる。額を伝う汗が、彼女の丸い頬へと滑る。柔らかそう。そうだ、女の子なんだからほっぺただって柔らかいに決まってる。
「我妻くんも竈門くんも、試験終わり記念にさ、帰りに定食屋アオイ行こうよ」
「そういえば夏限定の甘味をこの前始めたって聞いたな。俺は行くけど……善逸はどうする?」
そう、柔らかいのはほっぺただけじゃなくて、前に触った手だとか腰だとかそうだったし、夏服になってしばらく経つけど、ああやって半袖で中途半端に隠れている二の腕も柔らかいだろうし……。
「……我妻くんは?」
「エッ、……ああ定食屋アオイね、行く行く!!」
「じゃあ三人で行こっか。夏の限定メニュー、なんだろうね」
「ああ、確か……」
「待って待って言わないで竈門くん、お店着くまで秘密にしといて」
バタバタと自分の席に戻る二人の横顔を見送って、席に座った。