風紀委員会活動日誌 | ナノ


6/16 渋川千夏

「……えっ、捕まったんですか!?」
「そうだ。多重人格ではなく三つ子だったらしい」

 まさかそんな漫画みたいな。ていうか、三つ子かもしれないって竈門くん言ってたし、もしかして竈門くんがなにか関わってたのかもしれない。あとでお礼言っとこ。

「明日の朝、校内放送で全校に向けて発表するが、渋川にはその前に伝えた方がいいと思った」
「ありがとうございます」
「話は終わりだ。これを持っていけ」

 明日配るプリントかな、と思って冨岡先生が差し出すものを待っていると、先生は冷蔵庫からペットボトルを出してきた。

「……?」
「…………」

 沈黙。
 ……これは、ペットボトルを受けとれってことだろうか?

「……ありがとうございます?」

 手を出すと、そこにお茶のペットボトルが置かれた。超冷たい。

「不審者が捕まったとはいえ家には早く帰れ」
「……心配かけてすみません」
「渋川の責任ではない」
「えっと……どうもありがとうございます」
「もう用はないから退室していい」
「あ、はい、失礼しました」

 お茶を片手に風紀委員会室を出た。出たところで壁に背をもたれた我妻くんが待ってくれている。

「なに言われたの?」
「ああ、例の不審者が捕まったんだって」
「マジで!? よかったじゃん、寄り道解禁! どっか寄り道しようよ今日」
「喜ぶのそこなの? さっき冨岡先生にさっさと帰れって言われたばっかりだからあんまり遠くには――」
「我妻、廊下で騒ぐな!」

 委員会室の中から現れた冨岡先生が、我妻くんの頭に拳骨を落とした。うわあ、痛そう。

「渋川、寄り道はせずに早く帰れ」
「ですよねー……」

 冨岡先生がドアの向こうに引っ込んでいってから、我妻くんの方を見た。頭をおさえたままうずくまっている。私の手の中で冷えているペットボトルを差し出した。

「……とりあえず、これで冷やしなよ」
「ありがと……もうなんなんだよぉ冨岡先生……」

 我妻くんの頭を冷やしてるのはその冨岡先生に貰ったお茶なんだよな、とひっそりため息をついた。冨岡先生、優しいのか厳しいのかわかんないなあ。



 私たちの寄り道は、結局学校の近くのコンビニでジュースを買うくらいに留めておいた。私は学校では見ないココアを買って、我妻くんは期間限定のスイカラテを買っていた。……見るからに地雷じゃない?

「それおいしい?」
「渋川さんが思ってるよりいけるよこれ」
「えー……」

 ココアはいつものより砂糖が多いのか甘い。疲れてる日にはこれくらいでいいかな、って感じ。
 道すがらの話はいつも通りの他愛ない話。紙パックが空っぽになった頃、私の家の前まで来ていた。

「今日までありがとね。あいつが捕まったなら明日からはもう一人で登下校するから。じゃあまた明日」
「えっ、せっかく近いんだからこれからも一緒に行こうよ」

 鞄のポケットから出した鍵を差し込む手が止まる。振り替えると、我妻くんと目が合った。それより今、我妻くん何言った?

「だから、明日からも一緒に学校行きたいし一緒に帰りたいの!」
「いや、それはわかるんだけどさ……」
「渋川さんと話すの楽しいしさ、登下校の時間も同じくらいだしさ! ね、いいでしょ渋川さん、お願いっ!」

 全部そっちの都合じゃんか!!!
 喉元まで出掛かった言葉を飲み込んだ。別に私も我妻くんの騒がしい様子を見て眠気が飛んだりするし。胡蝶先輩の話とか、竈門くんの妹の話とか、そういうのを除けば。……そうだ、

「竈門くんの妹さんはいいの?」
「た、確かに禰豆子ちゃんの見守りもしなきゃいけない……うーん、渋川さん一緒に見守りしない?」
「しーまーせーんー、一人でしてなよ……」

 ストーカー紛いの行為はしたくない。風紀委員なので。ていうか我妻くんも風紀委員じゃん。副委員長じゃん。やめさせないと冨岡先生に何言われるかわかんない。任命責任とか言われて図書カード剥奪されたらどうしよう。

「……妹さんのことストーカーしないなら一緒に登下校してもいいけど」
「えっホント!? 神に誓ってしないからこれから毎日一緒に学校いこう!!!」
「ほんとにぃ?」

 ただ、まあ。
 一緒に行くなら、朝夕は我妻くんのことを見張れるわけだ。休日はどうなろうと知らないけど竈門くんは熱心に手伝っているらしいし妹さんも同じだろう。きっとそっと見守ってたら竈門くんが怒ってくれるはず。うん。

 ……私も、別にここ数週間の登下校が嫌だったわけではないし。

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