5/31 渋川千夏
「思ってたより早く終わった」
「ね」
職員室のクラス別の棚に召集状を入れた帰り道、いつも通り朝のココアタイム。我妻くんには昨日の飲むプリンのお礼に奢った。廊下で飲み食いしていると後で冨岡先生に怒られるので、ココアは教室までお預けだけど。
二年橘組の教室は高等部棟の奥の方にある。そもそも高二はなぜか最上階だし。この怪我でエレベーターオッケー出ないかな、出そうだよな。あんまり曲げないようにって言われたし。うん、使おう。高等部棟に入ってすぐのところにあるエレベーターのボタンを押す。怪我した人か荷物の多い先生くらいしか使わないから、すぐ中途半端な階で止まってたエレベーターが下りてきてドアが開いた。
「乗ってこ」
「渋川さんそんなに足悪い? 支えいる?」
「歳いったおばあちゃんに言うみたいに言わないでよ、まあちょっと四階までは辛いなって感じ」
「わ、ごめん朝階段歩かせちゃって」
「うん、あれでちょっと今日は無理だなって思った」
怪我と筋肉痛で足が結構大変なことになってる。よりによって今日は体育があって、それは休むって連絡は入れたんだけど、その他も含めて移動教室の多さにちょっと目の前が真っ暗になりかけた。
エレベーターが四階に着いた。我妻くんがドアをボタンと手で開けてくれている。ありがたく先に降りることにするけど、ボタン押してるならドアを押さえる必要はないんじゃないかな……。
「おはよ、渋川さん。なにエレベーター使ってるの、いけないんだー」
エレベーターホールにいたのは去年同じクラスだった尾崎さん。私と我妻くんっていう組み合わせに驚いたあと、エレベーターに乗って登場した私を軽くからかった。私は右腕と左膝を前に出して見せる。
「いや見てよこの怪我、四階はちょっと足痛くて無理」
「え、どうしたの、転んだりとか?」
「まあ……うん、そんな感じ」
不審者の件はあんまり言いたくないから、適当に濁して答えた。尾崎さんは「そっかあ」と適当な相づちで適当に流す。
「じゃあまた」
「お大事にー」
山椒組は橘組と逆方向なので、エレベーターホールで尾崎さんと分かれた。揺れるポニーテールを見送った。
「あ、そうだごめん、昨日のこと炭治郎に言っちゃったんだけど」
「竈門くん? ならまぁいいよ、仕方ない」
二人のことだ、多分うっかり我妻くんが口を滑らせてしまったんだろう。……あ、でも教室入ったら大声で「大丈夫だった?」って声かけてきそう。それはちょっとやだな。
「あ、いやその、炭治郎の常連さんの娘さんもおんなじのにあったっぽくて心配しててさ。調査してるんだって」
「お人好しな上に熱心だね……」
まだそんなに彼のことを知らないのに竈門くんならやりそうだなって思ってしまうのは、彼の行動に裏がないことが分かってるからだろうか。
教室のドアを開けると、予想通り竈門くんが駆け寄ってきた。予令まであと十分。その口が開く前に、高等部棟の端の非常階段まで引っ張っていった。