風紀委員会活動日誌 | ナノ


5/31 冨岡義勇

 朝七時半。何時に来るようにか伝え忘れたため、二人のために買った茶のペットボトルはだいぶ結露している。まだか、と思いつつも伝達ミスは俺の落ち度だ。コーヒーを一口、口に含んだ。

「失礼します。風紀委員長の渋川です」
「副委員長の我妻です」
「……入れ」

 キャスター付きの椅子から立ち上がり、入り口近くにあるローテーブルのソファに腰かけた。二人とも荷物は教室に置いてきたのか、手に持っているのは筆記用具だけだ。渋川の両膝は、昨日の昼にはなかった大きいガーゼで覆われている。立たせっぱなしも悪いから早く座らせてやろう。

「そこに座れ」

 ふたつ並んだ一人掛けのソファを指す。二人が座って、持っていた紙をこちらに差し出してきた。不審者の人相書き、掛けられた言葉、どこで遭遇したか、逃げた方面――そんなことが書かれている。概ね俺が聞こうとしていた内容と一致している。ありがたく貰っておこう。

「聞かれそうだなって思ってたことをまとめておいたんですけど、他に聞きたいこととかありますか?」
「不審者の口調はどんなものだった?」

 こちらが把握している14件の事例からすると、不審者の口調ややり口が大きく三つに分けられるはずだ。淡々とした口調で対話する姿勢を少しだけ見せる者、威嚇するように叫び散らす強引な手口の者、歯ぎしりばかりで話が全く通じないが女子生徒を連れ去る様子のない者。三者とも報告されている容姿は同じであるから、犯人は多重人格者か、実在するのは一人で他は幻覚だろうと言われているが実際のところはどうなんだろうか。

「ええと……それにどんな関係が?」
「不審者が多重人格者ではないか、という説がある。俺は信じていないが。淡々とした口調の者、やたらと叫び散らす者、歯ぎしりしかせず一言も発しない者」
「それなら淡々とした口調ですね。叫びも歯ぎしりもしていなかったです」
「そうか」

 淡々とした口調、と受け取った紙に書き足した。同時に箇条書きの項目に目を通す。十六、か。確かに被害に遭っているのは今のところ高校一年と二年の女子生徒に限られている。反例がなければ十六歳の女子は注意するようにアナウンスしよう。

「不審者の件は以上だ。それと会合の招集状、これを各クラスの担任に渡しておけ」
「わかりました」
「それと、渋川はもう少しスカートを伸ばしてボタンを上まで閉めろ。これで話は終わりだ、二人とも退室していい」

 校則違反というほどではないが、標準的なスカートの長さ――一瞬胡蝶の顔が頭をよぎって顔をしかめた――そう、標準的な長さに比べれば少し短い。そしてブラウスの第一ボタンを開けてネクタイも少し緩めている。式典のときはきちんとしているのだから、普段から……少なくとも下校時もしばらくはそれくらいした方がいいだろう。
 失礼しました、と言って二人は退室していった。渡された紙を背の高い机に置くと、下に水たまりを作った二本のペットボトル緑茶が目に入った。……渡し忘れていたな。


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